研究課題
本研究の目的達成のために必須であるラベルフリー多対多インタラクトーム技術HaloTagNAPPA-MSの構築を行った。はじめに固相上で合成・固定するために必要な蛋白質を準備した。このために蛋白質発現の鋳型となるORF-DNAを作成し、カスタム作成した発現ベクターに組み込んだ。これらのORF-DNAはすべて蛋白質が発現することが確認された。現在までに20種類の鋳型ORF-DNAを準備し、一部は蛋白質の発現を確認した。これら準備済20種類の蛋白質はすべて既知の相互作用蛋白質が報告されている(陽性コントロール)。これら陽性コントロールの鋳型ORF-DNAを固相上で蛋白質発現・固定しクエリとして、ヒト培養細胞抽出液を適用し相互作用実験を行った。相互作用した蛋白質複合体を研究協力者の川島博士が質量分析器により解析を行っている。得られた分子複合体の結果を、既知の相互作用蛋白質と比較し、陽性、擬陽性、陰性、偽陰性を調べる。固相上で発現した蛋白質の固定効率化のために、上記実験と並行して、蛋白質に合成DNAを結合させる方法を開発してきた(蛋白質のDNAラベル化)。DNAラベル化蛋白質のDNAを利用して固相へアミン結合により固定する。蛋白質DNAラベル化はタグ蛋白とDNAの共有結合を利用して行い、これまで10種類以上の蛋白においてラベル化に成功した。クロスリンカーを利用した従来法による蛋白質固相固定と並行して、今後、DNAラベル化蛋白質も利用してラベルフリー多対多相互作用解析を試みる予定である。
2: おおむね順調に進展している
鋳型DNAから蛋白質発現・捕捉した固相上(96ウェルプレート)の蛋白質に対し、ラベルフリーなヒト培養細胞ライセートを相互作用させ、質量分析による複合体の検出を行ってきている(コントロール実験)。このためにまずはじめにプレートに固定する蛋白質を合成するための鋳型となるORF-DNAを20種類程度作製・準備した。これら鋳型となるORF-DNAから発現される蛋白質はすべて、その相互作用蛋白質が既知であり、研究実施者の論文(Nature Methods 2009)においてキュレーション済のORFセットの一部である。キュレーションにおいては複数の論文もしくは複数の相互作用実験手法により相互作用がポジティブであったものをコントロールORFセットとして選択している。これら鋳型ORF-DNAは固相上で蛋白発現・固定し相互作用実験に用い、質量分析を行っており進捗状況は順調である。しかしながらこの質量分析実験中に、コロナ緊急事態宣言により理化学研究所は閉鎖となり実験が行えなくなっている。閉鎖は2020年4月10日から6月8日までの予定)。上記進捗と並行して蛋白質を固相に効率よく固定するため、一本鎖DNAを利用する方法を開発した。現在は蛋白質の固相への捕捉にBS3クロスリンカーを使用しているが、新しい固定化方法は、上記ORF-DNAを鋳型に合成した蛋白質に、バーコードと呼ばれる人工合成した既知配列の一本鎖DNAをクリックケミストリーを介し結合させ、この結合させたDNAを利用しリンクした蛋白質を固相に固定する技術である(蛋白バーコード法)。この方法に関しては現在論文をリバイス中(2020年5月20日)である。
2020年6月9日以降研究所を使用できるようになった際に、すでに相互作用が終了しているコントロール実験の質量分析を再度開始する。この結果をもとに統計処理できる程度数のコントロール実験を行う。解析数として20ペアの陽性実験、20ペアのランダムペア実験を予定している。その後クエリ蛋白質種を増やし、ヒトクエリ-ヒト培養細胞ライセートのラベルフリー多対多相互作用実験を行い標的蛋白複合体分子を同定する。その後ヒト細胞ライセート、微生物等培養液を利用して、それまでに使用したヒトクエリ蛋白に相互作用する培養液等の分泌分子の相互作用ネットワークを同定する。この実験の成否はヒトクエリの種類に依存するため、ヒト培養細胞ライセートの結果や文献情報を参考にどのようなクエリを準備するか検討する。
2020年2月-3月に使用・準備予定だったクローンと質量分析が緊急事態宣言による閉所により使用できなかった。緊急事態が終了した際、追加でのORFクローン準備、組み換え、蛋白発現、質量分析に使用する予定である。
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Nucleic Acids Research
巻: 48 ページ: e8~e8
10.1093/nar/gkz1086