研究課題/領域番号 |
19K05748
|
研究機関 | 岩手大学 |
研究代表者 |
川原田 泰之 岩手大学, 農学部, 助教 (80786129)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | LysM受容体 / 菌根共生 / 進化 / 共生相互作用 |
研究実績の概要 |
マメ科植物のEPR3受容体が根粒菌からのシグナル因子を受容・認識し、根粒共生相互作用を制御することが明らかとされてきた中で、EPR3受容体を含むLysM 型受容体キナーゼの機能進化は不明となっていた。そこで本研究では、公開された植物のゲノムや遺伝子情報と系統樹解析を用いて、EPR3受容体やLysM 型受容体キナーゼの機能を推定し、さらにepr3変異体を用いてアーバスキュラー菌根菌との共生過程を観察した。 これまで、マメ科のモデル植物であるミヤコグサ(Lotus japonicus)では、17のLysM 型受容体キナーゼが同定されていたが、最新のゲノム情報を用いた解析から新たに3つのLysM 型受容体キナーゼを同定した。次に、L. japonicusの20のLysM 型受容体キナーゼを基準に種子植物である単子葉植物と双子葉植物のゲノム情報から抽出したLysM 型受容体キナーゼを分類分けしたところ、それぞれ単子葉植物や双子葉植物で特異的なLysM 型受容体キナーゼの分類があることが明らとなった。さらに、アーバスキュラー菌根菌との共生能力を失った植物種では、同様にEPR3受容体が欠損しているだけではなく、水生植物も同様にEPR3受容体の欠損が確認された。 LjEpr3の機能解析を進めるため、Epr3 プロモーターとGus 遺伝子を連結させたキメラ遺伝子を作製し、毛状根形質転換によりLotus japonicusに導入して発現誘導の有無を観察した。その結果、根粒菌接種と菌根菌接種で共にEpr3遺伝子の発現誘導が確認された。さらに、Ljepr3変異体を用いてアーバスキュラー菌根菌との共生表現型を調査したところ、野生体に比べて菌糸数や樹状体数に違いが観察されなかったものの、嚢状体数が大きく減少していることを明らかにした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1. L. japonicus及び、単子葉植物や双子葉植物を含む17種の植物種の遺伝情報から抽出したLysM受容体キナーゼを解析した結果、単子葉植物や双子葉植物で特徴的な分類にあたるLysM受容体キナーゼが存在することを本研究より初めて明らかにした。さらに、EPR3受容体に着目すると水生植物を含むアーバスキュラー菌根菌との共生関係を欠落した植物種では同様に受容体の欠損が確認された。 2. LjEpr3遺伝子の発現解析を実施するために、プロモーターとGus遺伝子を融合したベクターを構築し、毛状根によりL. japonicusに形質転換した。根粒菌接種時によるLjEpr3遺伝子の発現変化は、既知のデータと同様な結果が得られた。また、アーバスキュラー菌根菌との共生過程では、LjEpr3遺伝子の特異的な発現誘導が確認されたことから、今後は詳細な発現解析が必要であると結論付けられた。一方、Ljepr3変異体を用いた表現型解析より、野生体と比較してアーバスキュラー菌根菌感染時の後期で嚢状体の数や形成部位が異なることが観察された。 このようなことから、本研究は概ね順調に進んでいると言える。
|
今後の研究の推進方策 |
次年度は大きく2つの解析を進めていく。1点目は、今年度に明らかとなったLjEpr3遺伝子の発現誘導について、プロモーターとGus遺伝子を用いて詳細な解析を進めていき、さらにRT-qPCRを用いてEpr3遺伝子の発現誘導についても同時に解析を進める。また、epr3変異体の表現型解析については、Ljepr3変異体の複数アレルを用いて詳細な観察を進めながら、アーバスキュラー菌根菌共生過程で発現が誘導されるマーカー遺伝子について野生体と変異体で比較解析する。さらに、イネepr3変異体を用いて、同様な表現型観察を同時並行で進めていく。
|