研究課題/領域番号 |
19K05749
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
石丸 泰寛 東北大学, 工学研究科, 准教授 (80590207)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | Ca2+チャネル / 就眠運動 / マメ科植物 |
研究実績の概要 |
農耕の文明が発祥したメソポタミアでは,食事の質を高めるためにイネ科等の穀物に加えて栄養に富むマメ科植物が栽培されてきたように,マメ科植物の重要性は古くから認識されてきた.それゆえ,マメ科植物の研究は古くから行われ,特に根粒菌との共生による窒素固定に関する研究は盛んに行われている.一方で,マメ科植物は就眠運動を行うことでも有名である.就眠運動の歴史は古く,最も古い記述は,紀元前400年のアレキサンダー大王の時代にさかのぼり,進化論でも有名なダーウィンの著書「植物の運動力」にも記載されている.また,就眠運動の研究を契機に,フランスの科学者ドゥ・メランによって,あらゆる生物に保存される体内時計が初めて発見された.その後,様々な生理学的研究や生化学的研究が行われ,様々なマメ科植物から葉を開かせる覚醒物質が単離・同定された.これらの化合物は葉の閉合を阻害し,葉を開いた状態を維持するとともに,葉の黄化を誘導し,最終的に枯死が誘導される. このように,就眠運動は,マメ科植物の生命活動に必要不可欠な現象であるが,就眠運動の意義は明らかではない.一方で,この運動が抑制されると生育ができなくなることから,マメ科植物の生命活動の根幹を担っていると考えられる.就眠運動の鍵となるのがカリウムイオン(K+)と塩化物イオン(Cl-)であり,葉の付け根に存在する葉枕の運動細胞において,これらのイオンが流出/流入することによって細胞収縮/膨張して動きが生み出される.近年,本研究代表者らは就眠運動のモデル植物であるアメリカネムノキから,就眠運動を制御するK+チャネルとCl-チャネルを見出した.しかし,これらのチャネル活性化には,高濃度のカルシウムイオン(Ca2+)の流入が必須な要素であることが分かった.本年度の研究では,就眠運動のシグナル伝達に必要と考えられるCa2+チャネルの候補を絞った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
酵母を用いた相補実験で簡便な活性評価を行い,その後,絞られたCa2+チャネル候補に対してアフリカツメガエルの卵母細胞を用いた二電極膜電位固定法によって詳細な特性を解析した確認した.酵母相補実験は,酵母のCa2+チャネルCCH1欠損株が,ツニカマイシンによる小胞体ストレスを受けると生育できなことを利用して,本Ca2+チャネル候補がCa輸送に関わることを明らかにした(J. Cell Sci. 2017, 130, 2317).また,シロイヌナズナのMID1相補活性チャネルを導入して,Ca2+輸送を相補できる予備実験を行った.
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今後の研究の推進方策 |
今回得られたCa2+チャネル候補の相同遺伝子は他のあらゆる植物にも存在していることが分かったことから,シロイヌナズナでも相同性タンパク質AtCATの解析を行う. 実験1.酵母を用いたAtCATs のCa2+輸送評価 AtCATs の遺伝子配列情報を基に遺伝子 の単離を行い,酵母発現用ベクターの作製を行う.酵母のcch1 欠損株にAtCAT1 とAtCAT2 を導入したベクターをそれぞれ発現させ,ツニカマイシン培地上での生育試験を行う.同時にエクオリン発現酵母にも導入して,細胞質内のCa2+濃度の変化を調べる. 実験2.AtCATs の細胞内局在と組織局在解析 細胞質内へのCa2+の流入は細胞外からだけとは限らず,液胞,ミトコンドリアや小胞体などの細胞内小器官もCa2+ストアからのCa2+の流入の可能性も考えられる.AtCATs 自身のプロモーターでAtCATs::GFP を発現制御したコンストラクトをシロイヌナズナに導入して細胞内局在を調べる.同時に組織局在 も観察して,気孔以外の組織における生理的意義を推定する.
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度,共同研究先にて行う実験が,次年度に持ち越したため,物品費と旅費と共に次年度使用予定である.
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