研究課題/領域番号 |
19K05750
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
古川 純 筑波大学, 生命環境系, 准教授 (40451687)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 樹木 / 休眠 / 元素動態 / カリウム / 節 |
研究実績の概要 |
短日環境により休眠が誘導されたポプラでは、PttSKOR-like2というカリウム(K)チャネル様タンパク質をコードする遺伝子が、葉の付け根の組織である“節”で高発現していることを明らかにしていた。今年度はこの輸送体の発現を、抗体染色による局在解析手法を用いてタンパク質レベルで検証し、休眠が誘導された個体では長日条件下の個体よりも当該タンパク質が維管束周辺に蓄積していることを確認した。節の切片を用いたレーザーアブレーション-ICP-MSによる元素分布の解析も同様の個体を用いて行ったところ、抗体染色によりPttSKOR-like2の発現部位であることが示された組織ではKもまた多く存在していることを示唆する結果が得られ、PttSKOR-like2がKの樹体内動態制御に関与している可能性が高まったと考えている。 また、短日条件下におけるこの輸送体の高発現により、葉面吸収されたセシウム(Cs)-137の樹体内挙動が変化することを明らかにしていた。Kの挙動もCs同様に変化するかを明らかにするために放射性Kによるトレーサー実験を行ったところ、Csに比べて樹体内でのKの移動速度は遅く、挙動を明確に判断するためにはより長時間の処理が必要であることを示す結果が得られた。維管束中の元素濃度を考えると、本来多量に含まれているKの輸送がゆるやかであることは適当であると考えられることから、これまでの実験よりも長時間処理した実験を行う必要があり、今後更なる検証を予定している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
PttSKOR-like2が実際にKの輸送活性を持つかどうかについて明らかにするために、「新学術領域研究リソース支援プログラム・短寿命RI供給プラットフォーム」により、K-42,43混合線源の供給を受けて動態解析を行った。長日と短日の条件下で栽培した個体を用いて葉面投与によるトレーサー実験を行ったところ、Kの樹体内挙動がゆるやかであるため、明確な挙動の検証には投与後100時間程度の処理時間が必要であることが明らかとなった。同事業で供給される線源は放射能が高く、またK-43は半減期が22.3時間と、K-42(半減期12.4時間)よりも長時間の解析に適していることから、今後はK-43を主とした解析を実施することとした。 またPttSKOR-like2タンパク質の発現部位を明らかにするため、抗体染色による局在解析を行い、当該タンパク質が維管束周辺に蓄積していること、休眠の誘導で存在量が増えること確認した。節の切片を用いたレーザーアブレーション-ICP-MSによる元素分布の解析から、PttSKOR-like2タンパク質の局在部位にはKも多く存在していることを示唆する結果を得た。 先行研究で行ったRNA-Seqによる網羅的な遺伝子発現解析から、PttSKOR-like2以外にも短日条件下の節で遺伝子発現が誘導されるK輸送体を複数見出していた。長日から短日に移行する際のこれら遺伝子の発現プロファイルをSKORと比較することで、K動態の制御にどのように寄与しているかを明らかにする必要がある。今年度は適切な検出法の確立と植物体のサンプリングに注力し、これを完了した。
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今後の研究の推進方策 |
PttSKOR-like2のK輸送活性解析については、K-43を主としたトレーサー実験を、長日、あるいは短日条件下で栽培した野生株とRNAi個体を用いて実施することで検証する。また、アフリカツメガエルの卵母細胞を用いた電気生理学的解析を行うための準備も進めており、K輸送活性の直接的な証明を行う。 休眠誘導時のPttSKOR-like2の発現誘導には植物ホルモンのアブシジン酸(ABA)が関与しているものと予測されているが、葉や節周辺へのABA塗布試験では、PttSKOR-like2の有意な発現誘導には至らなかった。そのため短日環境で栽培したポプラの節に含まれる植物ホルモンの網羅的定量解析を実施する。これによりABAの関与ならびに他の植物ホルモンの影響について検証し、短日の検知からPttSKOR-like2の発現誘導の間に存在する制御機構の一端を明らかにする。またPttSKOR-like2以外にも短日条件下の節で遺伝子発現が誘導されるK輸送体が複数存在することから、長日から短日に移行する際のこれら遺伝子の発現プロファイルを得ることで、ABAなどの植物ホルモンによる制御下にあると予想されるのか、またK動態の制御にどのように寄与しているかを明らかにする計画である。これらの遺伝子の中に近年植物体内でのK挙動の制御に関わることが報告された有望な候補が含まれていたことから、この輸送体に対する抗体を作成し、SKOR同様に抗体染色による局在解析も実施する予定である。
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