植物は主要な栄養元素である窒素の外部・内部の状況をモニタリングし、それに応じて窒素の獲得と利用を調節している。モニタリング対象の分子の一つは硝酸イオンであり、硝酸イオンを感知するとその輸送と代謝に関わる遺伝子の発現が誘導され、硝酸イオンの利用が促進される。この分子機構の大枠は明らかにされている。他方、窒素過剰の状態では抑制が起きる。抑制を誘導する分子としてグルタミンが示唆されているが、メカニズムはまだ不明である。
今年度はグルタミンを感知するメカニズムについて解析を進めた。アミノ酸や低分子に結合してセンサーとして働くドメインを持つタンパク質ファミリーに着目し、シロイヌナズナを用いてその機能解析を行った。植物にはこのファミリーに属するタンパク質が複数あるが、結合部位とされる部分のアミノ酸配列の保存性が高く同じ基質を認識すると予想された。シロイヌナズナには12個あり、そのうち核での遺伝子発現調節に関わる可能性があるものは10個である。これらのタンパク質をコードする遺伝子が破壊されたT-DNA挿入株を準備し(10遺伝子中9遺伝子)、グルタミンを与えた際の遺伝子発現の抑制について調べた。しかし、グルタミンに対する応答に野生型株との違いは見られなかった。そこでこれらの遺伝子の役割が重複している可能性を考え、多重変異体の作成を進めた。作成が終わった二重変異体と三重変異体でグルタミンに対する応答性を調べ、2つの遺伝子が破壊された二重変異体と三重変異体では、グルタミンによる遺伝子発現の抑制が緩和されていることが分かった。すなわち、これら2つの遺伝子がグルタミンによる遺伝子発現抑制経路で働いている可能性が示された。
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