研究課題/領域番号 |
19K05757
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
米山 香織 愛媛大学, 農学研究科, 助教 (20769997)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ストリゴラクトン / シロイヌナズナ / 養分欠乏 |
研究実績の概要 |
ストリゴラクトンは、植物の根から分泌され、根寄生植物の寄生およびアーバスキュラー菌根菌の共生を制御するシグナル物質として知られていた。その後2008年に、植物の地上部枝分かれを抑制する新奇植物ホルモンとしての役割が明らかにされた。その後、根の形態形成、二次成長、葉の老化促進など、植物の生長・分化に深く関与していることが次々と報告され、ストリゴラクトンを農業生産に利用する研究の重要性が高まっている。一方、ストリゴラクトンは、化学的に不安定で壊れやすく、植物の生産・分泌量の微量であるため、その生合成経路、生合成・調節メカニズムの詳細については不明な点が多い。また植物ホルモンとしての活性本体は特定されていない。本研究では、モデル植物であるシロイヌナズナのストリゴラクトン生合成を促進する条件を見出し、シロイヌナズナにおけるストリゴラクトン生合成調節メカニズムの解明を目指すことを目的として行っている。 これまでに、アカクローバーやソルガムなどのアーバスキュラー菌根菌の宿主植物では、共通してリン酸の、植物種によっては窒素の欠乏がストリゴラクトンの生産・分泌を顕著に促進することを明らかにしている。アーバスキュラー菌根菌の非宿主植物であるシロイヌナズナでは、養分条件が地上部枝分かれ抑制に影響を与えるという報告があるにも関わらず、ストリゴラクトン生産には影響を与えないという報告がある。2019年度は、低栄養条件がシロイヌナズナの地上部枝分かれ抑制およびストリゴラクトン生合成・受容シグナル伝達遺伝子の発現に与える影響を明らかにするため、養分条件の検討を行なった。その結果、ストリゴラクトン生合成遺伝子の発現が促進され、地上部枝分かれが抑制される条件を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アカクローバーなどでは、リン酸濃度が低下するに従ってストリゴラクトン生産・分泌が促進されることを明らかにしている。一方、アカクローバーと同様に、リン酸欠乏でストリゴラクトン生産・分泌が顕著に促進されるイネでは、リン酸欠乏の程度が強すぎると、逆にストリゴラクトン生産・分泌が低下することがある。シロイヌナズナの場合も、完全にリン酸を除去するなど極端な養分欠乏条件下では、ストリゴラクトン生産・分泌が低下してしまう可能性が考えられた。また、これまで養分条件がストリゴラクトン生産・分泌に与える影響を検討する実験では、水耕栽培を用いてきたが、シロイヌナズナの場合は、安定的に健康的な植物体を水耕栽培では作成するのが難しいと判断し、完全な土耕栽培での確立を目指すことにし、土壌資材の選抜から行なった。その結果、寒天培地で10日間培養後に、バーミキュライト:野菜と花の培養土(タキイ種苗)=10:1の土壌に移植し、窒素欠乏条件では、但野・田中培地のうち窒素濃度を1/5に、リン酸欠乏条件ではリン酸濃度を0にした液体培地を週に2回投与して、3~4週間培養すると、野生型Col-0では、各養分欠乏条件によって地上部枝分かれが抑制され、その時、ストリゴラクトン生合成遺伝子の発現は促進、受容・シグナル伝達遺伝子は抑制されていることが確認された。このストリゴラクトン生合成遺伝子発現の促進は、経時的に強くなることもわかった。そしてストリゴラクトン生合成lbo変異体でも、養分条件が地上部枝分かれを抑制すること、一方、ストリゴラクトン受容体d14変異体では、養分条件による地上部枝分かれ抑制に違いは認められないことがわかった。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度は、Col-0において地上部枝分かれ抑制およびストリゴラクトン生合成遺伝子発現の促進が確認できる養分条件を確立することができた。また低栄養条件処理開始から4週間後にその効果が顕著になることもわかった。そこで次に、この明確になった養分条件下で、1日のうち、どのタイミングの時に最も、ストリゴラクトン生合成遺伝子発現が高まるのかを調べる。これまでに、イネなどではストリゴラクトン生合成には概日リズムが関与している可能性を明らかにしている。同様な方法で、明条件開始直後から3時間おきに植物体の地上部基部をサンプリングし、リアルタイムPCRを用いて、ストリゴラクトン生合成遺伝子の発現量を調べる。同時に、lbo, d14変異体では、地上部基部および根の内生ストリゴラクトン含量を、LC-MS/MSを用いて精査する。Col-0において、ストリゴラクトン生合成遺伝子発現が最も高まるタイミングを見出すことができたら、内生ストリゴラクトン含量をタイングの前後も含めて調べる。さらに、サイトカイニン、オーキシンなどの他の植物ホルモンは、イネなどのストリゴラクトン生産・分泌に影響を与えることもこれまでに明らかにしていることから、ストリゴラクトンだけでなく、他の植物ホルモンの内生量、生合成・受容体関連遺伝子の発現量を調べる。 アザミウマの発生が確認されたら、ナズナの栽培は即刻停止し、消毒などを行い、最小限の被害に止めるようにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
参加予定だった3月に開催される学会が中止になったため、その分の旅費が浮いた。
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