研究課題/領域番号 |
19K05762
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
安部 公博 筑波大学, 生命環境系, 研究員 (10748940)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 枯草菌 / 微生物集団 / serine recombinase / 細胞分化 / 水平伝達 / 胞子形成 / 膜小胞 |
研究実績の概要 |
2019年度は,1)SprA serine recombinaseの機能解析,2)枯草菌の分化細胞に特異的な発現を示す遺伝子の選定,3)枯草菌における膜小胞の生産メカニズムの解析,4)微生物集団内における遺伝子の水平伝達に関する総説論文の執筆,を行った. 1)について.SPβファージにコードされるSprAのC末端の16アミノ酸領域は,DNA組換え中間体の形成と,SprBとの相互作用に必要な領域であることが明らかとなった.SprBは,SprAのDNA組換えの方向性を制御する重要な因子である.この研究成果は,現在論文にまとめて投稿中である. 2)について.枯草菌の分化細胞で働く遺伝子候補のプロモーター配列下流に蛍光タンパク質遺伝子を連結したコンストラクトを作製し,細胞分化とそれらの遺伝子の発現の相関性を蛍光顕微鏡で調べた. その結果,胞子形成とDNAコンピテンスに関与する遺伝子において,それぞれのプロモーター活性と細胞の分化状態に高い相関性がみられた.胞子形成とDNAコンピテンスは,枯草菌の代表的な特徴である.今後は,枯草菌集団内でのこれらの細胞への分化状態にフォーカスして解析を進める. 3)について.膜小胞を菌体外に産生する細胞が分化細胞の1種である可能性を検証するために,枯草菌の膜小胞生産に関わる遺伝子の同定を行った.その結果,オートリシン依存的な膜小胞形成機構が明らかとなった. 4)について.現在世界中で問題視されている,自然環境における薬剤耐性遺伝子の増幅・拡散や薬剤耐性病原菌の出現には,微生物集団内での遺伝子の水平伝達が大きく寄与すると考えられる.この問題における今後の研究課題を導き出すために,これまでに行われた関連分野の研究を調査し,総説論文を執筆した.この成果は,枯草菌集団内でのDNAコンピテンス細胞の挙動と遺伝子の水平伝達の関係性を研究する上で必要な基礎知識となる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Serine recombinaseによるDNA組換え反応は,in vivo ゲノム記録法における中心的な原理であり,本酵素の詳細な機能解析は,本技術の確立に重要な知見となる.本年度の研究から,serine recombinaseのC末端は,DNA組換え活性やDNA組み換えの方向性の制御に必要であることが明らかとなった(現在,この研究成果をまとめて論文を投稿中).また,微生物集団内におけるDNAの水平伝達機構について,総説論文を出版した.
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今後の研究の推進方策 |
これまでに選定した分化細胞特異的遺伝子プロモーターとserine recombinase遺伝子を組み合わせて,in vivoゲノム記録法の技術基盤の確立を目指す.枯草菌バイオフィルム中の各細胞の役割分担の変遷を,特にDNAコンピテンスと胞子形成に着目して解析していく.また,バイオフィルム内での薬剤耐性遺伝子の挙動についても,DNA受容細胞への分化と関連付けて解析する.さらに,膜小胞による薬剤耐性遺伝子等の物質輸送の可能性をin vivoゲノム記録法により検証する.
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していた出張がコロナウィルス流行によりキャンセルされたため. 投稿論文の査読が長引き,論文出版費用が使用されなかった. これらの経費は,2020年度の出張費と論文出版費用に使用する予定である.
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