研究課題/領域番号 |
19K05765
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研究機関 | 長岡技術科学大学 |
研究代表者 |
高橋 祥司 長岡技術科学大学, 工学研究科, 教授 (90324011)
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研究分担者 |
柴田 公彦 長岡技術科学大学, 工学研究科, 准教授 (10369928)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | D-アスパラギン酸 / 乳酸菌 / D-アスパラギン酸オキシダーゼ / 酵素スクリーニング / 発酵 / D-アミノ酸 |
研究実績の概要 |
近年,D-アスパラギン酸(D-Asp)の美容効果,生殖機能の改善・維持効果や統合失調症の改善効果なの改善効果などが報告されたことから,D-Aspの多様な応用的利用が期待されている.健康上有益な乳酸菌は,細胞壁構成成分としてD-Aspを利用し,細胞外にD-Aspを分泌生産することが知られている.申請者らは,D-Aspに対して高い特異性を示す酵母Cryptococcus humicola UJ1株由来のD-アスパラギン酸オキシダーゼ(ChDDO)を見いだし,ChDDOを用いたD-Asp定量法を開発してきた. そこで本研究では,ChDDOを用いたハイスループットなD-Asp高分泌生産乳酸菌のスクリーニング法を開発してD-Asp高分泌生産乳酸菌を単離し,そのD-Asp高分泌生産機構を明らかにすることで,新規な機能性食品の開発や,医農薬品原料として有用で機能性を有するD-Aspの高発酵生産法を開発するための基盤を築くことを目的とした. 本年度は,ChDDOを用いたハイスループットなD-Asp高生産分泌生産乳酸菌の酵素スクリーニング法を開発することに成功した.さらに,新潟県内の食品から多数の乳酸菌を単離し,開発したスクリーニング法を用いて,既知のD-Asp高分泌生産乳酸菌よりも著しく高い生産能を有する株を1株(WDN19株)単離することに成功した.WDN19株の全ゲノム配列を明らかにし,WDN19株が乳酸菌Lactobacillus curvatusに属すことを明らかにした.また,D-Asp分泌生産能は同一菌種で大きく異なることを明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
ChDDOと発色試薬としてトリンダー試薬(4-アミノアンチピリンとフェノールもしくはTOOS)を用いた西洋ワサビペルオキシダーゼとのカップリング反応による呈色反応により,0-4 mMのD-Aspを高い相関関係で検出できた.本酵素法は,乳酸菌の汎用培地であるMRS培地の影響をほとんど受けず,目的とするD-Asp濃度範囲(0.3~4 mM)が測定可能であった.また,検出限界及び定量限界は各々13 microM及び40 microMであった.本酵素法を用いて,既知の乳酸菌培養液上清中のD-Asp濃度を定量したところ,HPLCにより測定した濃度より低かったが,補正することでHPLC濃度に近いD-Asp濃度を推定できた. 新潟県内の42種の食品から約800株の乳酸菌を単離し,本酵素スクリーニング法に供したところ,既知のD-Asp高分泌生産菌であるLb. brevis JCM1131株よりも高いD-Asp分泌生産能を有する株を1株(WDN19株)単離することに成功した.WDN19株培養液上清のD-Asp濃度をHPLCにより測定したところ,Lb. brevis JCM1131株で報告された317 microMよりも高い1,079 microMであった.WDN19株の全ゲノム配列を解析したところ,既知のLb. curvatusのゲノム配列と99%の類似度を示したことから,WDN19株はLb. curvatusに属することが分かった.単離した他のLb. curvatusに属すると示唆された株には,D-Asp分泌産能が低い株や分泌生産が確認されない株も見られたことから,D-Asp生産能が同一種内で大きく異なることが示された.
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今後の研究の推進方策 |
本研究は予想以上に順調に進展していることから,今後はWDN19株のD-Asp高分泌生産機構やD-Asp分泌機構に関する知見を得ることを目的として,以下の項目について検討する予定である. (1)D-Asp高分泌生産培養条件の解析:WDN19株のD-Asp分泌生産能がどのような培養条件及び因子に影響を受けるのか明らかにするためとWDN19株によるD-Asp生産の最適条件を明らかにするため,培養温度,培地pH,浸透圧,窒素源や炭素源などの培地成分及び培養条件がD-Asp生産能に及ぼす影響を解析する. (2)アスパラギン酸ラセマーゼの機能解析:我々はWDN19株のゲノム配列にD-Aspの生合成を担うアスパラギン酸ラセマーゼ(AspR)ホモログ遺伝子を1つ見いだしている.そこで,AspRの機能とD-Asp高分泌生産との関係を明らかにするため,WDN19株とLb. curvatusの基準株であるJCM1096株のAspR遺伝子を大腸菌で発現させて精製し,その酵素学的諸特性を比較検討する.また,WDN19株とJCM1096株の細胞あたりのAspR活性やAspR遺伝子の転写レベルを明らかにする. (3)機械チャネル受容体の機能解析:いくつかの細菌において酸性L-アミノ酸の細胞外分泌が機械受容体チャネル(MscS)により行われることが報告されている.我々はWDN19株のゲノム配列にMscSホモログ遺伝子を見いだしている.そこで,MscSとD-Asp分泌生産との関係を明らかにするため,WDN19株のMscS遺伝子破壊株を作成し,D-Asp分泌生産に及ぼす影響を解析する.
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)計画では,初年度にD-Asp高生産乳酸菌のゲノム配列を解析する予定であったが,初年度早々に目的のD-Asp高生産乳酸菌を単離することに成功し,そのゲノム配列を解析する必要性が生じたことから,初年度に設備備品として購入予定であった卓上マイクロ冷却遠心機とコンパクトPAGE Ace Twinの購入を控えたため差額が生じた.また,研究分担者が人事交流により初年度のみ研究代表者と同じ機関に所属することになったことから,当初予定した消耗品が不用になったことが,次年度使用額が生じた主な理由である. (使用計画)現在,本研究は予想以上に順調に進展しており,既に本年度に解析予定であったD-Asp高生産乳酸菌のゲノム配列を明らかにすることができた.そこで,本年度は単離したD-Asp高生産乳酸菌の高生産機能に関する知見を得るため,「D-Asp高生産培養条件の解析」,「アスパラギン酸ラセマーゼの機能解析」,「MscSの機能解析」を進める予定であり,主に微生物培養実験,D-アミノ酸分析実験,DNA組換え実験及び酵素の精製や特性解析に必要とされる試薬や器具などの消耗品を購入する計画である.また,本研究で得られた研究成果を積極的に発表するための論文投稿に関わる費用や旅費にも支出する計画である.
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