研究実績の概要 |
D-アスパラギン酸(D-Asp)は抗生物質原料として有用であり、ヒトへの美容効果、生殖機能や統合失調症の改善効果などが報告されたことから、多様な応用的利用が期待されている。いくつかの乳酸菌はD-Aspを分泌生産することが知られている。そこで本研究では、申請者らが見いだしたD-Asp特異的に作用するD-アスパラギン酸オキシダーゼ(ChDDO)を用い、D-Asp分泌生産乳酸菌のスクリーニング法を開発してD-Asp高分泌生産乳酸菌を単離し、そのD-Asp高分泌生産機構を明らかにすることで、新規な機能性食品の開発やD-Aspの高発酵生産法を開発するための基盤を築くことを目的とした。 前年度までの研究で、申請者らはChDDOを用いたハイスループットなD-Asp高分泌生産乳酸菌のスクリーニング法を開発し、D-Aspを多量に分泌生産する乳酸菌WDN19株を単離することに成功した。そこで最終年度では、WDN19株のD-Asp高分泌生産機構を解析した。WDN19株はLatilactobacillus curvatusに近縁であり、そのD-Asp生産能は基準株DSM 20019株の13.7倍であった。WDN19株のD,L-Aspの相互変換を担うアスパラギン酸ラセマーゼ(RacD)活性とracD遺伝子転写量はDSM 20019株よりも非常に高かった。また、L-アスパラギンからのL-Asp生合成を担うL-アスパラギナーゼ(AnsA)活性もWDN19株の方がはるかに高かった。WDN19株のゲノム配列では、L-AspからのL-グルタミン酸合成を担うアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ遺伝子がL-Asp輸送体遺伝子を含むトランスポゾン挿入により破壊されていた。以上の結果から、WDN19株の高いD-Asp生産能力は、主にRacDとAnsAの高い活性と高いL-Asp供給能に起因することが明らかとなった。
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