研究実績の概要 |
バイオビニルの発酵生産システム構築を目的として、研究室で土壌より分離したバイオビニル生産菌Aspergillus niger S17-5株の9-, 10-ヒドロキシヘキシルイタコン酸の生産機構を解析した。培養液にバイオビニルの前駆物質として推察されるオクタン酸を添加して本株を培養したところ、バイオビニルの発酵生産性が1.3倍増加した。よって、オクタン酸由来のオクチル-CoAがオキサロ酢酸と反応してヘキシルクエン酸が生成した後、ヘキシルアコニット酸、ヘキシルイタコン酸が順次生成し、最後に水酸化酵素により水酸化されることでバイオビニルが生合成されることが示唆された。この生合成経路はアルキルクエン酸回路であると考えた。本成果により、バイオビニルを効率的に発酵生産するための知見を得た。 次に、バイオビニルの構造-機能相関解析を目的として、培養液から精製した10-ヒドロキシヘキシルイタコン酸をイタコン酸と水中でフリーラジカル重合することで、バイオビニルの重合反応性を解析した。その結果、10-ヒドロキシヘキシルイタコン酸ユニットの割合の増加に伴い得られるポリマーの分子量が低下したことから、バイオビニル分子の嵩高いヘキシル基が重合反応性を阻害することが考えられた。また、得られたポリマーを熱分解に供したところ、10-ヒドロキシヘキシルイタコン酸ユニットの割合が大きいポリマーほど脱水反応を示す熱分解ピークが不明瞭となり、ヘキシル基が加熱による脱水反応を阻害することが示唆された。本成果により、バイオビニルの重合反応性と得られるポリマーの熱分解挙動に関する知見を得た。
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