研究課題/領域番号 |
19K05770
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研究機関 | 香川大学 |
研究代表者 |
木村 義雄 香川大学, 農学部, 教授 (10243750)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ポリリン酸 / 粘液細菌 / NADキナーゼ |
研究実績の概要 |
細菌はリン酸が直鎖状につながったポリリン酸を飢餓時に合成、蓄積する。この飢餓時に作られるポリリン酸を粘液細菌はどのようにエネルギー生成などに利用しているのかを明らかにするため、初年度はポリリン酸関連酵素の諸性質を明らかにすることを目的とした。 粘液細菌においてポリリン酸を合成する主要酵素と考えられるポリリン酸キナーゼ1(Ppk1)は、ATPを用いてポリリン酸にリン酸基を転移することでポリリン酸の伸長が行われていること、本酵素はポリリン酸非存在下では、アデニル酸キナーゼ活性を有することを明らかにした。また、本酵素はATPとADPの比においてATPの比が2/3以上であればポリリン酸の合成反応が進むが、2/3以下になると逆反応が進み、ADPにポリリン酸のリン酸基を転移させ、ATPを合成することを明らかにした。 また、ポリリン酸合成関連酵素であるポリリン酸キナーゼ2(Ppk2)と相同性のあるタンパク質をコードする遺伝子を本菌は有していることから、このタンパク質を大腸菌で発現させ、その酵素諸性質を明らかにした。本酵素は他のPpk2が有する中央領域を100アミノ酸ほど欠いており、Ppk2活性(ATP合成活性)は有していないものの、アデニル酸キナーゼ活性が見られたことから、粘液細菌のPpk2ホモログタンパク質はアデニル酸キナーゼとして機能していることを明らかにした。 本菌はポリリン酸関連酵素としてpolyP:ATP-NAD kinase (PanK)を有している。この酵素はNADをリン酸化してNADPを生成する酵素であるが、その際、リン酸供与体としてATP以外にポリリン酸を利用することができる酵素である。本酵素は、10-15程度のリン酸からなる短鎖のポリリン酸を供与体として好み、また、他の細菌由来のPanKと異なり、NADHのリン酸化活性は見られないなどの酵素学的諸性質を有していた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までに粘液細菌においてポリリン酸を合成する主要酵素と考えられるポリリン酸キナーゼ1の酵素学的諸性質の検討を終え、本酵素がATPを用いてポリリン酸を合成していることを確認した。この研究において本酵素はポリリン酸が存在しない時はアデニル酸キナーゼとして機能していることを明らかにし、この酵素の新たな機能を初めて明らかにすることができた。 また、ポリリン酸合成関連酵素であるポリリン酸キナーゼ2(Ppk2)と相同性のあるタンパク質はPpk2活性は有していないものの、アデニル酸キナーゼ活性が見られたことから、粘液細菌のPpk2ホモログタンパク質はアデニル酸キナーゼとして機能していることを明らかにするとともに、生物全般に見られる本菌のアデニル酸キナーゼ(AdkA)の酵素学的諸性質も明らかにした。AMPをADPにすることができるアデニル酸キナーゼは生物にとってエネルギーの恒常性に不可欠は酵素であるが、本菌は他の生物で見られるAdkAのほかに、Ppk1とPpk2を補足的に利用してエネルギーの恒常性を維持していると推察された。 最後にポリリン酸を利用してNADをNADPにリン酸化するpoly:ATP-NADキナーゼの酵素学的諸性質を明らかにし、飢餓時にはポリリン酸を用いてNADPを生成していることが推察され、これによって生成されたNADPは飢餓時の酸化ストレスの適応に利用されていると考えられた。 これらの酵素の諸性質について、それぞれ1報ずつ論文として報告できたことから、本年度はおおむね順調に研究が進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は最初にポリリン酸を利用してAMPをADPにリン酸化するpolyP:AMP phosphotransferase (Pap)の諸性質を明らかにする。我々は、粘液細菌は飢餓時にポリリン酸を用いてエネルギー生成がなされていると考えているが、本酵素はポリリン酸を用いてAMPをADPに生成することができる酵素で、主要なポリリン酸を介したエネルギー生成酵素の1つである。尚、この酵素を有していない生物はアデニル酸キナーゼによってATPのリン酸基をAMPに転移させることでADPを生成している。PapがADP合成を行う最適な条件、本酵素の基質特異性及びどのようなポリリン酸をリン酸供与体とするのかなどを明らかにする。最後にin vitroで本菌のPap、ポリリン酸キナーゼ1及びアデニル酸キナーゼを用いてAMPとポリリン酸からADPとATPの生産を試みる。 また、粘液細菌はポリリン酸分解酵素を2つ有している。飢餓時に貴重なATPを用いてポリリン酸を合成しているのにもかかわらず、ポリリン酸を分解する酵素を2つ有していることから、この酵素は何らかの重要な働きを有していると考えられ、これらの酵素の諸性質を明らかにするとともに、ポリリン酸分解酵素遺伝子欠損株を作製し、野生株と変異株における表現型の違いを見ることでこの酵素の機能解析を行う。 最後に野生株、ポリリン酸キナーゼ1遺伝子欠損株及びポリリン酸分解酵素欠損株を用いて、飢餓時の細胞や胞子の発芽時の細胞からポリリン酸を抽出及び定量することで、飢餓時におけるポリリン酸合成時期、合成されるポリリン酸の鎖長及び合成量を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度の支給額の多くを備品の購入に充てたため、年度の後半で試薬等の購入に不足が生じることが想定され、50万円の前倒し支払請求を行った。前倒しにより支給された金額のうち、多くは試薬の購入に充てたが、少し多めの金額を前倒し請求したため残額が生じた。この残額は次年度に繰り越しを行い、試薬、備品の購入に使用する予定である。
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