細菌の一部は、リン酸が直鎖状につながったポリリン酸を飢餓時に合成する。粘液細菌においてポリリン酸を合成する主要酵素と考えられるポリリン酸キナーゼ1(Ppk1)は、ATPを用いてポリリン酸にリン酸基を転移することでポリリン酸の伸長が行われていること、本酵素はポリリン酸非存在下では、アデニル酸キナーゼ活性を有することを既に明らかにしているが、この酵素によりポリリン酸の伸長反応が起こる際、初発の基質が何であるかの報告は、他の細菌を含めて明らかにされていない。そこで、種々の長さのポリリン酸を用いてPpk1の活性測定を行うことで、本酵素はどのようにしてポリリン酸を合成しているのかを明らかにした。 また、粘液細菌におけるポリリン酸の機能を明らかにするため、ppk1変異株とポリリン酸分解酵素であるPpx2の変異株を用いて、種々の表現型を野生株と比較した。その結果、ppk1変異株では飢餓時での胞子形成期においてATPの割合(エネルギーチャージ)が減少しているのに対し、ppx変異株では逆にATPの割合が少し高かったことから、ポリリン酸は飢餓時でのATP合成に補足的な寄与をしていることが推定された。 我々は研究期間全体を通して、粘液細菌におけるポリリン酸の合成と分解機構及び本菌でのポリリン酸の役割について明らかにするとともに、合成されたポリリン酸を用いてAMPやNAD+をリン酸化して、ADPとNADP+を生成する酵素(それぞれpolyP:ATP-NAD kinaseとpolyP:AMP phosphotransferase)の酵素学的諸性質と本菌でのこれらの酵素の役割について明らかにすることができた。
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