研究課題/領域番号 |
19K05771
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研究機関 | 宮崎大学 |
研究代表者 |
井上 謙吾 宮崎大学, 農学部, 准教授 (70581304)
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研究分担者 |
和田 啓 宮崎大学, 医学部, 准教授 (80379304)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | シトクロムc / 生物電気化学 |
研究実績の概要 |
鉄還元菌Geobacter sulfurreducensは細胞外への電子伝達能力が極めて高く、電極への電子伝達メカニズムの解明は微生物燃料電池への応用において重要な研究課題である。本研究では本株が電極への電子伝達に必須な細胞外膜シトクロムOmcZの3次元構造を明らかにし、微生物が電極へ直接電子伝達を行う能力についてそのメカニズムを明らかにすることを目的としている。OmcZは、水溶性の高い50 kDaのシトクロムOmcZLとして生産された後、ペリプラズム、あるいは細胞外(未解明)でプロテアーゼによる切断を受けて30 kDaの水溶性の低いOmcZSになる。本研究では、C末端に6個のヒスチジンを付加したOmcZL全長を過剰発現させるためのOmcZL発現プラスミドを構築し、G. sulfurreducensを形質転換することで、OmcZLの大量生産を行った。HisTrapカラムを用いたアフィニティークロマトグラフィーによって精製OmcZLを大量調整した。シッティングドロップ法による結晶化条件の検討では、1,152条件のうち、8条件で良好な結晶の形成が確認されていた。それらの8条件について、さらに塩濃度、沈殿剤濃度、pHを改めて条件の再検討をハンギングドロップ法によって試験した(全687条件)。その結果、多数の条件で良好な結晶が得られたため、X線回折データの収集を試みたところ、昨年度より対称性が高く(空間群P222)、かつ高い分解能(2.4Å)のデータを得ることに成功した。現在、得られた結晶の重原子置換体を作成し、位相の決定を試みている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
共免疫沈降法によるOmcZと相互作用するタンパク質については、OmcZと相互作用する可能性の高いタンパク質がSDS-PAGEのバンドとして確認できているものの、得られているタンパク質量や質の問題により同定には至っていない。OmcZは電子キャリアタンパク質であるため、接触するタンパク質との結合は緩やか、かつ、瞬間的な接触であることが予想されるため、今後は化学的なクロスリンクによる相互作用タンパク質の探索を行う。OmcZの結晶構造解析では、結晶化に成功し、反射データの取得に至ったものの構造決定には至っていないものの、位相が決定すれば高い確率で立体構造が明らかになる段階にある。
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今後の研究の推進方策 |
OmcZと相互作用するタンパク質の解析においては、これまで試みてきた実験系の単純な拡張では目的のタンパク質の同定は困難であることが考えられたため、今後は化学的修飾によるクロスリンクによって相互作用するタンパク質の探索を行う。その後、SDS-PAGEによる電気泳動・分離を行い、各バンドを切り出し、MALDI-TOF/MS解析などにより、相互作用タンパク質を特定する。同定されたタンパク質については、その遺伝子破壊株の作製と表現型解析(OmcZの生産や微生物燃料電池での発電能力など)を行うことで、細胞外電子伝達ネットワークに関与するあらたな因子を明らかにできると考えられる。 OmcZの立体構造については、X線回折データ取得可能な結晶が得られる結晶化条件が明らかになっており、良好な分解能の反射データを得ることに成功した。今後は、反射データが得られた結晶と同じ結晶化条件で大量の結晶を作製し、重原子置換を行った後、重原子異常分散を利用した位相決定を行う。OmcZの立体構造が明らかになれば、c型ヘムの結合位置やそれぞれの分子表面からの距離などから、分子内の電子移動経路を推定することが可能になる。最も外側に位置するヘム周辺の分子表面の性質から電極(疎水性)と相互作用する可能性の高いアミノ酸に変異を導入するなど、変異酵素を作製し、その電極への電子伝達能力などについて解析することで、電極と相互作用するアミノ酸やタンパク質の立体的特徴などを明らかにすることができると考えられる。さらに、OmcZが形成すると考えられている電気伝導性ナノワイヤーの構造をシミュレーションから予測する。
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