研究課題/領域番号 |
19K05772
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
九町 健一 鹿児島大学, 理工学域理学系, 准教授 (70404473)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 窒素固定 / 放線菌 / 酸素 / 分子遺伝学 |
研究実績の概要 |
窒素固定は大気中の窒素ガスからアンモニアを生成する反応であり、生態系への窒素養分の供給に不可欠な生体反応である。これまで発見された窒素固定生物種はバクテリアに限られ、それらは多様な系統分類群に分布する。 窒素固定反応を触媒する酵素ニトロゲナーゼは、酸素が存在すると容易に失活する。Frankia属の放線菌はベシクルと呼ばれる酸素耐性の器官を発達させ、その内部でニトロゲナーゼを合成することで、酸素の存在下でも窒素固定を行える。私たちはこれまでベシクルの発達に異常を示すFrankiaの変異体を多数単離している。本課題では、それらの表現型を詳細に調べて発達のどの段階に異常を持つかを知り、異常の原因となる遺伝子を同定することを目的として研究を行った。 ベシクル数が大幅に減少した5つの変異体については、ベシクルの大きさやベシクル膜の厚さも野生株と比べて低下していたことから、変異の原因遺伝子はベシクル原基の発生のみならず、原基の成熟ベシクルへの発達にも関与していることが分かった。またこれらの変異株は、窒素欠乏条件において菌糸で発現するグルタミン合成酵素の誘導は正常であったことから、一般的な窒素制御遺伝子ではなくベシクル分化に特化した遺伝子が変異していることが分かった。 ベシクルは作れるが窒素固定を行えない変異体について解析を行った結果、2つの変異体ではベシクル膜が十分に発達しておらず、ベシクル内の酸素濃度が上昇することにより窒素固定が阻害されることが示唆された。もう1つの変異体はNAD+合成酵素が変異しており、窒素固定反応に必要なエネルギーや還元力の供給に必要なNAD+やNADHが不足することにより窒素固定能が損なわれると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ベシクル数が大幅に減少した変異体については、表現型解析は当初の計画以上に進めることができた。しかし、変異原因遺伝子の同定については芳しい成果は得られなかった。具体的には、変異株と復帰変異株のゲノム解析を行い、前者には存在するが後者では野生型に復帰している変異を探索したが、そのような変異を見つけることができなかった。今回のゲノム解析ではSNPと短いInDelにしか着目していなかったが、原因変異はそれ以外のタイプの変異(トランスポソンの転移等)なのかもしれない。 ベシクルは作れるが窒素固定を行えない変異体(N3H4株、N4H4株、N9D9株)のうち、N4H4株とN9D9株については詳細な顕微鏡観察によりベシクル膜の発達に異常があることを見出した。N9D9株については上記のようなゲノム解析により、変異原因遺伝子の候補を見つけることができた。現在は、野生型の遺伝子を変異体に形質転換することにより、相補実験を試みている。N3H4株についてはNAD+合成酵素遺伝子中の変異が窒素固定異常の原因と予想されていたが、大腸菌による組換えタンパク質の合成やそれを用いた酵素活性の測定が上手くいかず、証明には至っていない。そこでこちらに関しても形質転換を用いた相補実験を試みている。
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今後の研究の推進方策 |
昨年6月に、大腸菌との接合によりフランキアの形質転換に成功したという論文が発表された。そこで、変異原因遺伝子の同定については、当初計画していた復帰変異株とゲノム解析を利用する方法はとらず、野生型遺伝子を変異株に形質転換する相補実験により行うことにした。今年度は、過去のゲノム解析から原因遺伝子の候補が予想できているN3H4株、N7C9株、N9D9株、N10E6株について相補実験を試みる。 候補遺伝子が予想できていない変異株にも対応するため、接合用のベクターをベースにゲノムライブラリーを作製し、それを用いた相補実験も試みる。 また、形質転換による遺伝子操作の幅を広げるために、より多くの選択マーカー遺伝子(ポシティブマーカー・ネガティブマーカー)や、レポーター遺伝子をテストし、フランキアで機能するものを見つける。
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次年度使用額が生じた理由 |
フランキアの形質転換法が可能となったため、計画していたゲノム解析を一部行う必要がなくなったため。残額は、形質転換実験に必要な試薬や器具の購入に充てる予定である。
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