現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
近年報告された大腸菌との接合によるフランキアの形質転換を試みた(Pesce et al., Appl Environ Microbiol, 2019, 85:e00957)。論文と同一の野生株を用い、培養や接合に用いる培地の種類や、接合に用いる細菌の増殖フェイズ等について条件検討を行った。論文著者と綿密な情報交換を行い、実験手技も彼らに忠実に従った。しかし、形質転換体を得ることはできなかった。これとは別に、エレクトロポレーション法によりフランキアの形質転換に成功したという報告があった(Gifford et al., Front Microbiol, 2019, 10:2230)。著者からプラスミドを入手し、論文記載の方法に従って実験を行ったが、やはり形質転換体は得られなかった。 ベシクルの数やサイズは野生株と大差がないにも関わらず窒素固定が行えない5種類の変異株の表現型解析を行った。暗視野顕微鏡での観察の結果、全ての株において膜の発達が不十分なベシクルの割合が高かった。低酸素応答性蛍光色素でベシクルを染色したところ、全ての株が野生株よりも低い蛍光を示した。以上の結果より、これらの変異株はベシクル膜の発達に関わる遺伝子が変異しており、ベシクル内の酸素濃度を低く保てないために窒素固定が行えないと考えられた。 複数の変異株の細胞から、窒素固定能が回復した細胞を濃縮培養した。いくつかの変異株については、単一コロニー由来の回復株の系統を確立した。5株の変異株および1株の回復株のゲノム解析を行った。既に所有していた13株のゲノム解析結果と合わせて、検出された全ての変異をまとめたデータベースを構築した。変異株とそれに対応する回復株の比較から、原因変異の候補を推定することができた。
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今後の研究の推進方策 |
我々の研究室ではコドン使用頻度やプロモーター配列をフランキアに最適化した人工的な抗生物質耐性遺伝子をエレクトロポレーション法によりフランキア細胞に導入することにより、一過的な形質転換に成功している(Kucho et al., J Biosci, 2013, 38:713)。今年度は、Pesce et al.(2019)およびGifford et al.(2019)で用いていた広宿主域プラスミドに、この人工マーカー遺伝子と放線菌で実績のある複数のマーカー遺伝子を導入し、Kucho et al.(2013)の方法に従って形質転換を試みる。 窒素固定変異体の原因変異の同定については、変異株と回復株(変異株の細胞集団から得られた窒素固定能を回復した細胞系統)のゲノム解析にもとづく方法に重点を置く。具体的な流れは以下の通りである。①単一細胞由来の回復株系統を確立する、②回復株の表現型を詳細に調べて野生型に回復していることを確認する、③回復株のゲノムを解析して変異を同定する、④回復株と変異株のゲノムで検出された変異を比較し、復帰変異またはサプレッサー変異を見つける、⑤複数の回復株で④で見つかった変異を調べる。以上の解析を次の6種の変異株において行う:ベシクル膜の発達に異常を示す変異株(N4H4、N9D9)、ベシクルをほとんど形成しない変異株(G21E10、G23C4、G23D3、G23G1)。G23G1は①以降に、N4H4とG23C4は②以降に、G21E10は③以降に、N9D9とG23D3は⑤以降に取り組む。
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