研究課題/領域番号 |
19K05774
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研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
林 郁子 横浜市立大学, 生命医科学研究科, 准教授 (80464527)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 細胞骨格 / プラスミド / トレッドミル / チューブリン / 動態 |
研究実績の概要 |
炭疽菌などの病原性バチルス族の毒素遺伝子は低コピー数プラスミドにコードされる。この毒素プラスミドは細胞内で数個しか存在しないことから、プラスミド分配にはプラスミド上にコードされたチューブリン相同タンパク質TubZが分配モーターとして必要である。TubZはGTP依存的に重合して極性のある線維構造を形成する。TubZ線維は微小管同様プラス端で伸長しマイナス端で脱重合する性質をもち、プラスミドはTubZ線維のマイナス端にDNA結合タンパク質TubRとともに局在しけん引される。しかし脱重合する線維の末端においてどのようにプラスミドが脱着を繰り返しながらけん引されるのか、その分子機構は不明である。 2021年度はTubZの動態に焦点をあてて解析を進めた。重合活性は光散乱法により定量的に解析するとともに、高速AFMにより線維構造の解析とプラス端・マイナス端の重合速度を求めた。私たちはこれまでの生化学的解析からTubZ線維の脱重合速度がDNAの存在下で上昇することを明らかにしている。しかし試験管内でのTubZとDNAの結合実験からはその相互作用を検出することができなかった。高速AFMの解析より、TubZ線維重合時にDNAとの相互作用を観察することができたため、速度論的解析を行った。 TubZの重合、およびDNAの相互作用に深く関与すると推測されるC末端tailの天然編成領域について、変異体を利用した生化学的解析を行った。C末端tailは塩基性に富む領域であるが、その変異に伴い重合能の低下ばかりでなくDNAとの相互作用に影響を与えることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
高速AFMによる生体分子の観察においては、基板上に分子を固定することが重要になる。本課題では、マイカ基板にTubZ線維を過渡的に固定化するため、ビオチン化TubZとHisタグ融合TubZの基板への導入を試した。双方とも活性有るTubZを固定化することができたが、以後の実験を進めるにあたりHisタグTubZを採用した。基板にはNi-NTAを含む脂質二重膜を用い、微量のHisタグ融合TubZを固定化た。さらにその上に遊離のTubZを添加することで、基板上で線維構造の運動を観察することができた。TubZの重合速度は全反射照明蛍光顕微鏡を用いた一分子解析の結果と比較的近い結果が得られたことから、TubZ線維の重合反応の再構成系が構築できたといえる。またTubZ線維の形状(線維のピッチ、太さ)についても解析を行った。得られた結果は、これまでの電子顕微鏡による解析結果とは異なり、長いピッチをもつことがわかった。電子顕微鏡解析では、GTPアナログを用いてTubZ線維を作製していることより、高速AFMでのGTP加水分解を伴う動的な構造と異なっていることが示唆される。TubZ線維はGTP加水分解時に大々的に線維構造を変化させるのかもしれない。 TubZのC末端のtail(天然変性領域)は塩基性アミノ酸に富み、TubZの重合に必須なことが知られる。重合(TubZ同士の相互作用)、DNAの認識を明らかにするため、C末端tailについても生化学的解析を進めた。tailの塩基性アミノ酸に変異を導入したところ、重合における臨界濃度が上昇するとともに、DNA存在下での重合速度に変化を与えることも明らかにした。これよりtailはTubZ重合とDNAとの相互作用にも関わることを示した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は高速AFMを用いてTubZの速度論的解析(DNAの有無によるプラス端とマイナス端の重合・脱重合速度の計測)を行う。またTubZ線維のピッチや高さの統計値をとり、既存の報告との違いを比較し、国際雑誌に投稿する。高速AFMの利点は動的な構造を可視化できる点にあるため、GTPアナログや加水分解反応における遷移状態を模倣する化合物(BeF2等)を利用して解析を進めていく予定である。 上記のTubZの重合系を用いて、TubRとセントロメア配列複合体との動態解析を行う予定である。TubRとセントロメア配列複合体の最小単位は構築済みであり(Hayashi et al., 2018)、高速AFMを用いて観察を開始している。X線小角散乱法で観察した通り、伸びたTubR: DNA複合体構造であった。TubZ線維の相互作用により構造変化を起こすか等解析を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
高速FM実験は申請者らが金沢大学に赴き行っているが、コロナ禍の自粛により出張できず実験を行うことができなかった。そのため旅費を次年度に持ち越ししたため、使用額が生じた。 生じた差額については、今後実験旅行に費やすとともに、論文投稿にかかる費用にあてる予定である。
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