細胞骨格が原核細胞にも存在することが明らかになって以来、様々な細胞骨格因子がバクテリアの形態や分裂、遺伝子分配に関わることがわかってきた。病原性バチルス属のチューブリン相同タンパク質TubZはGTPの加水分解に依存して線維構造を形成し、毒素プラスミドを分配する。TubZ線維の運動性は微小管の動態と似通っているが、その線維構造は微小管と大きく異なる。また遺伝子分配の分子機構も既存のものとは異なっており、明確にはわかっていない。 本研究では結晶構造解析と高速AFMによる分子の可視化によりTubZの運動性を解析するとともに、関連因子(DNA結合タンパク質TubRとTubY)による遺伝子分配の制御機構を明らかにすることを目指す。ここではMerR転写因子に属するTubYの結晶構造を決定し、TubYは四量体化すること、これまでに立体構造が決定されてきたMerRファミリータンパク質とはDNAとの結合様式が異なることを明らかにした。またフットプリント法により、TubYがTubR:セントロメア複合体と複合体を形成すること、TubYがDNAの湾曲を誘発しTubZの転写制御を行う可能性を示した。さらに、TubYにはDNAと細胞膜双方に結合できる領域があり、プラスミドがTubZ線維から離脱し娘細胞へ分配される際の制御に関わる可能性を示した。またTubZ線維の高速AFMによる観察の結果から、線維の動態は過去の知見と合致しているが電子顕微鏡で観察された線維構造とは異なる結果を得た。 今後はTubZ線維に結合したGTPの状態に依存した線維構造を解析するため、X線線維回折と電子顕微鏡を併用することでTubZ線維の動態と構造の関係を明らかにしたい。そして広く生物に保存されたチューブリンスーパーファミリーの多彩な機能と動態、立体構造の相関関係を明らかにし、生体分子が形成する動的線維の動力産生機構を明らかにする。
|