研究課題/領域番号 |
19K05776
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研究機関 | 福井県立大学 |
研究代表者 |
丸山 千登勢 福井県立大学, 生物資源学部, 准教授 (20452120)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 非タンパク性アミノ酸 / 二次代謝 / 生合成 |
研究実績の概要 |
非タンパク性アミノ酸(NPAA)は、生体内においてアミノ酸代謝中間体や神経伝達物質として機能するだけでなく、生物組織や天然有機化合物の構成成分として機能しており、産業上重要な化合物の一群である。本研究で我々は、NPAAの新たな探索資源および安価な供給資源として、微生物が生産するペプチド系二次代謝産物の多様性に着目した。 3つのNPAA(phenylalanine誘導体、hydroxy-L-valine、β-homolysine)から構成されるペプチド化合物resormycin(RM)は、Streptomyces属放線菌が生産する植物病原真菌特異的な抗生物質である。構成成分の一つであるβ-homolysine(β-hLys)は、有機合成品が医薬品の合成原料やアミノ酸アナログとして市販されているが、天然物からは見つかっておらず、RMは数少ない天然由来β-hLys含有化合物である。これまでにβ-hLys生合成に関する研究報告はなく、β-hLysは新規経路によって生合成される可能性が示唆された。またL-valineのメチル化、水酸化誘導体は、数多くの天然有機化合物に含まれており、生理活性に重要な役割を担っているが、L-valineのメチル化および水酸化酵素が実際に同定された例は少ない。これら修飾酵素は、創薬研究においてペプチド系化合物の多様性創出に有用なだけでなく、臨床分野においてもアミノ酸濃度測定法への活用が期待されている。本研究で明らかにするRM生合成機構は、このような学術的、工業的に価値の高いNPAAおよびアミノ酸修飾酵素の探索と応用利用に有意義な知見を与えると期待している。そこで本年度の研究では、RM生合成遺伝子群の遺伝子破壊実験および組換え酵素を用いたin vitro反応を実施し、β-hLys生合成に関わる新規NPAAを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年の研究で、RM生産菌より、約50 kbpからなるRM生合成遺伝子群(RM遺伝子群)を同定した。またこれまでに、RMのペプチド骨格の形成は、2つの非リボソーム型ペプチド合成酵素(NRPS)によって触媒されること、またNRPS遺伝子の破壊株において、RMの生産性が完全に消失した一方で、β-hLysを生産蓄積することが判明した。そこでRM遺伝子群の遺伝子破壊実験をさらに進め、β-hLys生合成に関与する遺伝子群の探索を試みた。その結果、RM遺伝子群の19の遺伝子群のうち、7つの遺伝子がβ-hLys生合成に関与することを明らかにした。また、各遺伝子破壊株に13C-L-arginineを用いた添加培養を行い、遺伝子を探索した結果、L-arginineの代謝物であるagmatineをputrescineに変換するagmatinaseをコードするorf14遺伝子破壊株において新たな生合成中間体(化合物X)を見出した。Orf14組換え酵素を用いたin vitro反応において、Orf14がagmatineからputrescineを生成することを明らかにしていた。しかしながら、orf14遺伝子破壊株を基質とした酵素反応において、化合物Xを基質にα-hLysを生成したことから、Orf14の本来の基質はα-hLysがグアにジル化された化合物であることが判明した。 また本年度の研究で、Phe誘導体が有する2箇所の水酸基が、Phe-4-hydroxylaseに相同性を示すOrf8によって触媒されることを明らかにした。本酵素は、1つの酵素でPheの2カ所を水酸化する新規Phe水酸化酵素であることが判明し、その反応機構には大変興味が持たれた。現在、Orf8の詳細な反応機構について、組換え酵素を用いたin vitro反応にて、引き続き解析を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の結果から、β-hLysは、L-arginineを出発物質として、化合物Xを経由して生合成されることが明らかになった。昨年までに、PLP依存型aminotransferaseをコードするorf4がβ-hLys生合成に関与することを明らかにし、また本年度の遺伝子破壊実験の結果から、さらに5つの酵素遺伝子が関与していることが判明した。これらの酵素遺伝子は、L-arginineからβ-hLysへと変換するために、グアニジル基の脱離と増炭反応を触媒することが予想された。5つの酵素遺伝子はそれぞれ、L-valineからL-Leucineへと変換する酵素に相同性を示すことが判明しており、これらの酵素遺伝子を中心に、組換え酵素を用いたin vitro反応による機能同定を進める。 また、Pheの2箇所を水酸化するOrf8については、フェニルケトン尿症の新たな診断用酵素への応用利用が期待された。そこで今後は、Orf8の詳細な機能解析を進め、診断用酵素として活用するための反応速度論解析を実施し、応用利用に向けた基盤構築を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
NPAAを含む新規生理活性物質の創出について、本年度中に学術論文への投稿を計画しており、現在執筆中である。2022年度中に英文公正料や論文投稿料としての支出を考えている。
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