研究課題
【背景・目的】私達は過酸化脂肪酸を積極的に還元するLactobacillus plantarum P1-2株を分離し、酸素感受性短寿命変異体の線虫に本菌を投与したところ、平均寿命の延長と老人性しみ(リボフスチン)の生成を抑制した。続いて鉄剤で消化管の脂質過酸化を誘導したラットに本菌を投与したところ、大腸粘膜中の脂質過酸化指標の低値を示す結果を得た。ラットにおける生理活性は死菌体で消失することから、酵素に起因と推定され、過酸化物分解酵素の精製を試みた。【方法・結果】本菌の無細胞抽出液をTOYOPEARL Butyl 650S、Red sepharos、DEAE sepharose Fast Flowと2’5-ADP-sepharoseに供したところ、50kDaと45kDa、48kDaの酵素が得られた。過酸化水素分解活性を持つ画分から精製された酵素はNADHを電子供与体として過酸化水素に対して活性を示した。過酸化脂肪酸分解活性を持つ画分から精製された2種酵素はNAD(P)Hを電子供与体として過酸化脂肪酸還元活性を示した。この3種の酵素のアミノ酸配列をBLAST解析したところ、過酸化水素還元酵素は機能既知であるEnterococcus fecalisのNADH peroxidaseと74%のSimilarityを示した。そのため、NADH peroxidaseだと示唆された。2種の過酸化脂肪酸還元酵素は機能既知であるE. coliの glutathione reductaseと43%のsimilarityを示した。glutathione reductaseが過酸化脂肪酸 を分解するという報告は見いだせない。そのため、2種の過酸化脂肪酸還元酵素はNAD(P)Hを直接用いて単一タンパクで過酸化脂肪酸分解能を有す酵素と示唆された。現在、反応機構解明のためX線結晶解析を行っている。
1: 当初の計画以上に進展している
2019年度目標として以下2目標を掲げていた。1.L. plan. P2株の過酸化脂肪酸還元酵素反応機構解析。: L. plan. P2株の2種の精製過酸化脂肪酸還元酵素を用いて、過酸化脂質と過酸化脂肪酸の基幹反応解析が修了した(実績概要参照)。2.分離株(L. plan. P2株, P. pent. Be1株)を活用する酸化ストレス防御系の開発.: 複合培養系では、十分な過酸化水素分解活性の発現に至らなかったが、各々の単一菌を用いて過酸化水素、過酸化脂質還元分解活性の優良培養条件確立に成功した。そこで、各単一菌体を用いて、in vivo ラット系による酸化ストレス活性評価系を確立し(次年度予定)、実際のストレス防御活性を評価した。P. pent. Be1株では、過酸化脂肪酸防御活性が負の活性相関であったが、L. plan. P2では目的の過酸化脂肪酸防御活性の発現に成功した。
2020年度目標として2019年度の結果を基に、以下2目標を掲げる。1.L. plan. P2株の過酸化脂肪酸還元酵素反応機構解析。: 昨年度、2種の過酸化脂肪酸還元酵素における過酸化脂肪酸基幹反応解析が修了したため、反応機構解明のためX線結晶解析を行う。解析結果により部位特異的変異酵素を作成し、反応解析に供したい。2.分離株(L. plan. P2株)を活用する酸化ストレス防御系の開発。: 昨年度、in vivo ラット系による酸化ストレス活性評価系を確立し,L. plan. P2株の過酸化脂肪酸防御活性の大腸での発現に成功した。母子における投与効果、血液生化学的解析、腸内のフローラ解析を引き続き行う。過酸化水素還元菌として、 P. pent. Be1株の還元活性が低いため、新たに、同活性を持つ食用菌株の検索を行う。過酸化水素分解活性を有す食用酵母の複数選抜に成功しているので、L. plan. P2株共培養系として評価する予定である。
物品が想定以上に安価で購入できたため、少額の差額が発生した。消耗品費に使用予定である。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (1件)
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