研究課題/領域番号 |
19K05781
|
研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
高野 英晃 日本大学, 生物資源科学部, 准教授 (50385994)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 光センサー / LitR / LOV / CrtR |
研究実績の概要 |
我々が独自に見出してきた非光合成バクテリア由来の光センサー候補群の遺伝子生化学的な解析を実施した。 放線菌Streptomyces griseusのSigK-RskAシステムにおいては、暗条件においてアンチシグマ因子として機能するRskAがRNAポリメラーゼシグマ因子SigKの働きを抑制する一方で、明条件においては何らかの機構によってRskAが不活性化し、フリーとなったSigKが標的プロモーターを認識することで光誘導性遺伝子群のスイッチがオンとなる新規な光誘導系であることが遺伝学的な解析によって強く示唆された。 酢酸菌群の公開ゲノム情報より、フラビンを光受容分子とするLOVファミリー光センサーホモログが本菌群の一部に分布していることが予想された。LOV型光センサーを保有する8菌群を対象として、セミRT-PCRによる遺伝子発現解析を実施した結果、GluconoacetobacterとKomagataeibacterの2菌株において、LOV遺伝子に隣接する光回復酵素遺伝子のmRNA合成の著しい光誘導が認められた。このことは酢酸菌LOVが光センサーとして機能することを示唆している。また、転写開始点の決定によりプロモーター構造を明らかにした。 CrtRは我々によってグラム陽性Corynebacteriumから見出された光センサー候補であり、カロテノイド生産の光誘導制御の中心的な役割を担う。ゲノムサーチよりCrtRホモログがグラム陰性のバクテロイデテス門に広く分布していることを見出した。著しい光誘導性カロテノイド生産を示したShingobacterium属細菌のcrtR遺伝子を解析した。まず本菌群でこれまでに報告が見つからない宿主-ベクター系を接合伝達法によって確立し、さらにcrtR遺伝子破壊株を作製した。本破壊株は、暗条件と明条件の両条件下において同レベルのカロテノイド生産を示したことから、CrtRはCorynebacteriumの場合と同じくリプレッサーとして働くことが判明した。また、転写開始点の決定によりプロモーター構造を明らかにした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々がこれまでに解析を行ってきたLitRファミリーとは異なるタイプの光センサー候補遺伝子を見出すことに成功しており、また、実際に転写レベルで著しい光誘導が確認されている。放線菌とShingobacteriumについては遺伝子破壊を通じて遺伝学的な解析を行うことができている。一方、酢酸菌については広宿主域ベクターを用いた形質転換には成功しているが、遺伝子破壊実験は今後実施予定である。 上記、遺伝学的な解析に加えて、組換えタンパク質を用いた光センサーとしての機能解析を行う必要があるが、予備実験より大腸菌における組換えタンパク質の発現が確認されていることから、今後実施予定の解析は順調に進むものと考えられる。 また、各種有用細菌群における光誘導型発現系を確立するために、各種発現ベクターを構築した。今後、その機能評価を行う予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
光センサー候補の遺伝生化学的解析を実施し、新規な光センサーとしての証明を行う。 放線菌Streptomyces griseusのSigK-RskAシステムにおいては、SigKのシグマ因子としての機能を確認するためにIn vitro mRNA合成実験を行い、SigK認識プロモーターを明確にする。また、RskA添加実験を行い、RskAがアンチシグマ因子として機能することを確かめる。 酢酸菌のLOVHTHはアクチベーターとして機能することが予想されていることから、遺伝子破壊実験によって証明する。組換えタンパク質を用いてターゲットプロモーター領域との相互作用をビアコア解析によって確認する。LOV型光センサーは青色光の吸収にともなって吸収スペクトルが変化することが知られている。本解析を組換えタンパク質を用いて実施する。 Shingobacterium属細菌のCrtRについても、ビアコア解析によってターゲットプロモーター領域との相互作用を確認する。CrtRは既知ドメインを有していないことから、光アンテナ分子を推定することは困難である。そこで、ランダムトランスポゾン変異法によって、カロテノイド生産の光誘導に影響を及ぼす変異株を取得し、再ゲノム解析による変異遺伝子の同定を通じて、アンテナ分子遺伝子を同定する。 応用研究として、放線菌、バチルス、酢酸菌、Shingobacterium、Corynebacteriumを宿主とする光誘導型タンパク質生産系を構築する。これまでに構築した発現ベクターを用いて、細胞内タンパク質としてカテコールオキシダーゼ、β-グルクロニダーゼ、緑色蛍光タンパク質、細胞外タンパク質としてリグニン分解酵素ラッカーゼ、食用酵素トランスグルタミナーゼ、キシロース分解酵素キシロースイソメラーゼなどの生産を指標として、光誘導系の機能評価を行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
複数の細菌群を対象としたRNAseq解析を予定していたが、高純度なトータルRNAの精製法を確立することができなかったためである。2021年度に精製法を確立し、本解析を実施する。
|