研究課題/領域番号 |
19K05787
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
鈴木 一史 新潟大学, 自然科学系, 教授 (00444183)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | small RNA / 遺伝子発現 / Csrシステム / RNA結合タンパク質 / 応用微生物学 / キチナーゼ |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、細菌sRNAによる遺伝子発現調節機構におけるsRNAの標的RNAの切り替えとsRNAの分解制御機構を明らかにすることである。Serratia marcescensのキチン分解利用系の遺伝子発現を連動的に制御するアンチセンス型sRNA ChiXには2つの標的mRNAがあり、一方から他方のmRNAに標的が変わる。その機構にはChiXのターミネーターまで及ぶ長いmRNA側の相補配列が関与することが明らかになった。さらに、S. plymuthicaにおいてこの機構への関与が考えられるRNAシャペロンHfqの欠損株取得に成功した。大腸菌においてRNA結合タンパク質に結合するsRNA CsrBは、膜結合タンパク質CsrDが関与し環境に応答してターミネーター直前の一本鎖領域の切断の有無で分解が調節される。プラスミドを用いた実験によってCsrDの活性に影響を与えることが明らかになったアミノ酸残基を、アラニン残基へ置換し、それら変異csrD遺伝子を染色体上で発現させ、CsrB分解への影響を調べた。その結果、プラスミドを用いた場合は多コピーによる影響があることがわかり、染色体上での発現によりCsrD活性に重要なアミノ酸残基が複数特定された。また、バイオフィルム構成多糖であるβ-1,6-GlcNAcポリマーを大腸菌で生産させると、培養初期からバイオフィルムを形成してしまい、高濃度の菌体を得ることができない。そこで、CsrシステムのsRNA CsrBの発現と安定性の制御系を構築し、菌体量が十分に増加した後にβ-1,6-GlcNAcポリマー生合成遺伝子群を発現させ、バイオフィルムをコントロールすることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度はS. marcescensにおける標的RNA切り替えに重要なChiXターミネーター付近の相補配列の解析が進み、ターミネーター前後の相補配列が重要であることを明らかにできた。さらに、S. marcescensで得ることができなかったhfq変異株が、S. plymuthicaで構築できたことは今後の研究の進展に大きなメリットとなった。今後は、S. plymuthica の各種変異株の構築とその解析が可能と考えられた。大腸菌のタンパク質結合型sRNAが関与するCsrシステムについての研究では、懸案となっていたCsrDの部位特異的変異遺伝子を染色体で発現させることに成功した。そこで、この解析を優先的に実施し、プラスミド上で変異CsrDを発現させた時のコピー数の影響を除く結果が得られ、CsrDの活性に重要なアミノ酸残基を特定できたとともに、環境応答のメカニズム解明にヒントとなる知見を得ることができた。また、バイオフィルム構成多糖であるβ-1,6-GlcNAcポリマーを大腸菌で生産させると、培養初期からバイオフィルムを形成してしまい、高濃度の菌体を得ることができない。そこで、CsrシステムのsRNA CsrBの発現と安定性の制御系を構築し、菌体量が十分に増加した後にβ-1,6-GlcNAcポリマー生合成遺伝子群を発現させ、バイオフィルムをコントロールすることができた。これによりβ-1,6-GlcNAcポリマー高生産の条件を整えることができた。このように研究は新たな展開を迎えており、おおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
[アンチセンス型sRNA, ChiXについて] 標的RNA切り替えに重要なターミネーター付近の相補配列の解析:ChiXのターミネーター付近とのmRNAの相補配列領域について、塩基置換や挿入を加え、染色体上のchiR発現抑制解除についてキチナーゼ活性を指標に確認する。標的RNA切り替えへのHfqの関与:S. plymuthicaのhfq欠損株取得に成功したため、同じ方法で各種変異株を構築する。これ以降は、基本的にS. plymuthicaのキチン分解利用系を中心に研究を進める。検出不可能なRNAによる発現制御の証明:chiPの配列に置き換えたchiR mRNA 5′ UTRはRT-PCRで検出できないにも関わらずChiXによるchiRの発現抑制を解除した。大腸菌でも同様の結果が得られるか調べる。 [タンパク質結合型sRNA, CsrB/Cについて] CsrB/Cのターミネーター構造と安定性制御の解析:ターミネーターおよびその直前の一本鎖領域の配列が異なるsRNA, CsrCの分解制御がCsrBと同様であるか、CsrCとCsrBのターミネーターの入れ替えや塩基置換の導入などを実施して詳細を調べる。安定性制御に関与するCsrDのアミノ酸残基の探索:CsrDの活性に重要なアミノ酸残基が、CsrCの分解についても同様に重要であるか明らかにする。他菌株におけるCsr sRNAの安定性制御:S. plymuthicaやAeromonas salmonicida のCsrシステムを確認するとともにcsrD欠損株を構築し、sRNAの安定性制御を調べる。sRNAの安定性制御の応用:CsrシステムのsRNA CsrBの発現と安定性の制御系を利用し、バイオフィルム構成多糖であるβ-1,6-GlcNAcポリマーの大腸菌での生産について引き続き検討する。
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