研究実績の概要 |
本研究の目的は、細菌sRNAによる遺伝子発現調節機構におけるsRNAの標的RNAの切り替えとsRNAの分解制御機構を明らかにすることである。Serratia属細菌において、キチン分解利用系の遺伝子発現を連動的に制御するアンチセンス型sRNA ChiXには2つの標的mRNAがあり、一方から他方のmRNAに標的が変わる。その機構には、ChiX転写終結領域とターゲットmRNAとの塩基対形成が重要であることが明らかになった。さらに、Serratia plymuthicaにおいて、RNA結合タンパク質Hfqが、キチン分解酵素発現に必須な転写因子を翻訳レベルで制御するChiX非依存の新たな発現制御機構の存在が示唆された。大腸菌において、RNA結合タンパク質に結合してその機能を阻害するsRNA CsrBは、膜結合タンパク質CsrDによってその安定性が制御されている。染色体に変異csrD遺伝子を導入することで、CsrD活性に重要なアミノ酸残基を複数特定することができた。Aeromonas salmonicidaのCsrDは大腸菌との類似性は低いが、大腸菌CsrBの安定性を制御することができ、細菌におけるCsrDによるsRNA安定性制御の重要性が示された。また、バイオフィルム構成多糖であるβ-1,6-GlcNAcポリマーを大腸菌で生産させるため、CsrシステムのsRNA CsrBの発現と安定性の制御系を利用し、菌体量が十分に増加した後にβ-1,6-GlcNAcポリマー生合成遺伝子群を発現させることでバイオフィルムをコントロールすることができた。本研究によってアンチセンス型とタンパク質結合型のsRNAによる新たな制御機構を明らかにし、応用への展開を進めることができた。
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