研究課題
リボソーム生合成関連転写因子をコードするSFP1の高発現には、転写因子をコードするGCN4が必須であり、SFP1のプロモーターにGCN4結合配列様の配列を見出したことなどから、GCN4の高発現を介したSFP1の高発現という発現誘導経路がS. cerevisiae SPY3の優れた高温耐性獲得に重要であることを明らかにした。高温条件下でのSfp1の核局在とリボソーム生合成関連遺伝子の発現を精密に解析することにより、高温条件下ではSfp1はリボソーム生合成関連遺伝子のネガティブレギュレーターとしても機能し、SPY3は細胞内でエネルギーやリソースを一番消費するリボソーム生合成を高温ストレス条件下で一過的に抑制し、代わりにそのエネルギーやリソースを利用して優れた高温ストレス耐性を発揮している可能性を見出した。本研究成果は、第71回日本生物工学会大会の大会トピックスに選抜された。SPY3とOgataea polymorpha NCYC495のRNA-seqおよびプロテオーム解析を行うために、まず、明らかとなっていないゲノムのde novo解析を行った。その結果、SPY3においては計5,643遺伝子を見つけ、そのうち44個は他種生物の遺伝子と相同性を示すことがわかり、SPY3が非常に特異なゲノム構成を持つこと、これらの他種生物遺伝子がSPY3の優れた高温耐性獲得に関与している可能性を見出した。44℃までの優れた高温耐性を示す産業利用酵母Pichia kudriavzevii N77-4の高温ストレス適応には、新規のZnフィンガータンパク質であるPkZfp1が重要な役割を果たしており、高温ストレスによって生じる細胞内活性酸素の増大を防ぐ効果を持つことを明らかにして論文投稿を行った。
3: やや遅れている
プロジェクトが始まってから学生2名の参加が取りやめになったこと、さらに、煩雑な作業を伴うde novoゲノム解析の遅れおよび得られた結果から予定していたRNA-seq解析およびプロテオーム解析にはさらなる準備が必要であることがわかったことから、それら関連解析とOgataea polymorpha NCYC495の高温耐性解析に少し遅れが生じている。
SPY3の高温ストレス耐性機構の解明については、引き続きSfp1とリボソーム機能との関連について調べ、高温条件下でのSfp1の核局在の意義と機能および高温条件下でのリボソーム生合成の役割について解析を進める。加えて、RNA-seq解析を行い、細胞周期や細胞成長に関連する遺伝子に注目して高温条件下での発現を調べ、SPY3の高温耐性との関連を探る。可能であればプロテオーム解析も進め、高温条件下で高発現するタンパク質の同定とその役割について解析を進める。NCYC495の高温ストレス耐性機構の解明については、O. polymorphaに特徴的な発現を示し、細胞壁タンパク質をコードしていると予想されるOpSPI1がその優れた高温耐性に関与していることをすでに見出していることから、その機能や役割を細胞内局在解析、遺伝子のドメイン解析、細胞壁や膜の完全性解析などから探り、OpSpi1による高温耐性獲得機構を解析する。OpSPI1の高発現機構についても全く明らかとなっていないことから、高発現に関与するシグナル伝達機構について解析を進める。N77-4の高温ストレス耐性機構の解明については、高温ストレスによって有毒な細胞内活性酸素が生じることから、その除去機構について解析を進める。上記で得られた知見を利用しつつ、高温条件下でのSPY3やNCYC495、N77-4によるバイオエタノールや乳酸、核酸系調味料の原料となる酵母RNAの高生産化について検討する。
学内共同利用施設の利用とバイオインフォマティクス解析支援に採択されたことにより、de novoゲノムシークエンシング解析が予想よりも非常に格安で実施できたこと、学内支援により成果発表旅費の支援が得られたこと、学内支援により論文投稿の際の英文校閲費の支援が得られたこと、de novoゲノム配列解析の結果から多数の変異やゲノムの再編が見出され、予定していたRNA-seq解析およびプロテオーム解析にはさらなる準備が必要であることがわかり、関連解析の実施が時期尚早であることから次年度以降に延期したこと、プロジェクトが始まってから学生2名の参加が取りやめになりプロジェクト従事人数が減ったことなどから、次年度使用額が生じた。翌年度の助成金の使用計画としては、プロジェクトに学生2名が新たに参加したこともあり、de novoゲノム配列解析の終了を急ぎ、延期したRNA-seq解析およびプロテオーム解析を含む関連解析を早急に進め次年度使用額の執行に努め、今後の研究の推進方策に従った研究の実施、研究成果発表、論文発表などを進め、翌年度助成金の執行に努める。
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