最終年度は、酵母Saccharomyces cerevisiae SPY3で高発現しているアミノ酸生合成関連転写因子が抗酸化酵素遺伝子群の発現を正に制御しており、それにより高温条件下でも活性酸素ストレスが低く抑えられていること、および、SPY3で高発現している脂質生合成関連転写因子がエルゴステロール合成酵素遺伝子群の高発現を誘導し、エルゴステロール産生能力が高温耐性獲得に重要となる結果を得た。SPY3のゲノム解析についても継続して進めた。 実施期間全体の成果としては、アミノ酸生合成関連転写因子やリボソーム生合成関連転写因子の高発現を通じた、リボソーム生合成やG1細胞周期、抗酸化遺伝子の発現促進が酵母で優れた高温耐性を獲得するために重要であることを明らかにした。また、高温条件下では細胞膜の流動性が上昇し膜機能に障害が起こるが、脂質生合成関連転写因子の高発現を通じたエルゴステロール産生能力の向上が細胞膜の流動性上昇を抑え、高温耐性化につながる可能性を見出した。ゲノム解析から、SPY3はS. cerevisiaeには見られない44個の機能不明遺伝子を持つなど特異なゲノム構成を持ち、この特異なゲノム構成が優れた高温耐性に関与している可能性を見出した。酵母Pichia kudriavzeviiでは、ゲノム解析から高温ストレス条件下で生じる活性酸素を除去するSOD酵素遺伝子やその転写誘導に関与するZnフィンガータンパク質遺伝子を同定し、高温条件下でそれらが顕著に発現誘導を受け高温耐性発現に必須であることを明らかにした。 41.5℃の高温条件下でSPY3を用いて対糖収率100%でエタノールを生産させることに成功した。酵母Ogataea polymorphaに乳酸脱水素酵素遺伝子を導入し、45℃の高温条件下でL-乳酸とD-乳酸をそれぞれ対糖収率97%と85%で生産させることにも成功した。 本研究から、酵母の高温耐性獲得メカニズムの一端が明らかとなり、今後、発酵生産の効率化に利用することが期待される。
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