本研究は、口腔常在細菌叢の中で特に口腔内の健康維持に重要と考えられている細菌群(口腔健康細菌群)に焦点を当て、これら「健康細菌群」の遺伝子機能を解明することにより口腔予防システムの確立につなげていくことを目標としている。 初年度は、遺伝子機能解明に不可欠な「健康細菌群」の遺伝子操作系の構築のため、CRISPR-Casシステムの利用を検討した。 次年度は、遺伝子操作系の構築に超好熱性アーキアのToxin-Antitoxin(TA)システムの利用を検討した。TAシステムの毒性評価のため、ゲノム上に推定TAシステムが多く存在するThermococcus kodakarensis (Tko)を用いて、49種の推定TAシステムについてToxin遺伝子単独、あるいはAntitoxinと共に大腸菌用発現ベクターにクローニングし、発現誘導により大腸菌に対する毒性の有無を評価した。結果、Toxinの約75%が毒性を示し、Antitoxinの90%以上がその毒性を中和した。このことは超好熱性アーキアのTAシステムが中温性の細菌である大腸菌において機能しており、遺伝子操作のツールとしての応用可能性が示された。 最終年度は、TAシステムのTko細胞自身における毒性を調べた。Tkoゲノム上に8種存在する好熱性アーキアに特徴的なHEPN-MNTペアについて、そのすべてのオペロンの欠失変異体を作製した。オペロンまたはToxin遺伝子を挿入したシャトルベクターを欠損株に導入し、コロニー形成能を評価した。オペロンを導入した株は8種全てにおいて形質転換体を得た。一方、Toxin遺伝子単独では大腸菌において毒性を示した遺伝子について形質転換体が得られず、Tko内においても毒性を示すことが示された。
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