研究課題/領域番号 |
19K05798
|
研究機関 | 滋賀県立大学 |
研究代表者 |
竹原 宗範 滋賀県立大学, 工学部, 講師 (30275169)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 塩基性ポリペプチド / ポリ(ε-L-リシン) / ポリ(γ-L-ジアミノ酪酸) / ポリ(γ-D-ジアミノ酪酸) / ポリ(L-ジアミノプロピオン酸) / 抗菌性 / 相乗作用 / 環境応答 |
研究実績の概要 |
本研究は抗菌性の塩基性アミノ酸のポリマーであるポリ(ε-L-リシン)(ε-PL)の放線菌による「準普遍的」な生産に着目し,ε-PLおよびその類縁化合物の生産と機能に関する生物学的意義を明らかにするとともに,これらポリマーの新機能性分子としての利用展開の礎を築くことを目的としている。本実験計画では,ε-PLおよびその類縁体であるジアミノ酪酸(DAB)やジアミノプロピオン酸(DAP)のポリマーについて,抗菌剤としての役割を再考するとともに,環境応答に関わる分子としての性質を調査する。次の検討項目について,2020年度に得られた成果を報告する。 1) DAPポリマーの構造決定 ε-PL 生産株の一つが生産するDAPポリマーは,くし状構造を特徴とするポリ(L-ジアミノプロピオン酸)(PAP)であることを前年度に決定した。本年度は,PAPの抗菌活性試験を追試し,これらの成果をAppl. Microbiol. Biotechnol.に投稿,アクセプトに至った。 2) ポリ(γ-D-ジアミノ酪酸)(γ-D-PAB)の生産,構造決定および活性評価 Streptoalloteichus属放線菌によって生合成されるγ-D-PABは,D-DABのα-位のカルボキシ基とγ-位のアミノ基間でイソペプチド結合を介して縮重合したポリマーである。γ-D-PABは鏡像ポリマーであるγ-L-PAB,またε-PLとは異なり,弱酸性下で生産されることを見出した。γ-D-PABの重合度はn = 4 - 41でγ-L-PAB(n = 9 - 26)やε-PL(n = 22 - 36)よりも広い重合度分布を示した。さらに,γ-D-PABはε-PLと併用することで,Bacillus subtilisやSaccharomyces cerevisiaeに対して相乗的に抗菌能を発現した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究課題は次の5つの検討項目,i) PAPの構造決定,ii) 塩基性ポリペプチドの抗菌性の相加効果と相乗効果の検定,iii) 塩基性ポリペプチド生合成遺伝子のノックアウト体の作製とpH感受性試験,iv) ε-PLの菌体密度依存的生産,および v) ε-PLのシデロフォア能の検討より構成されている。当該年度においては,以下に示すようにi) また特にii) については非常に興味深い成果が得られ,当初の計画以上の進展が見られた。一方,新型コロナウイルス感染拡大防止に伴い,実験従事者の出校制限を受けて,当該年度の第1四半期(6月末まで)は一切の実験を行うことができず,iii) については十分に検討できなかった。以上より総合的に判断して「(3) やや遅れている」との評価に至った。 「i) PAPの構造決定」で得られた成果については,当初の計画通りに,PAPの発見,生産・精製と抗菌活性試験の結果をあわせて,学術論文として公開することができた。また「ii) 抗菌性の相加効果と相乗効果の検定」を実施するにあたり,γ-L-PABおよびγ-D-PABの精製に従前用いていた限外ろ過膜を入手できなくなったため(前年度報告済み),重炭酸アンモニウム緩衝液を移動相とする弱陽イオン交換カラムを用いた精製法を新たに構築した。改良法で精製したγ-D-PABをε-PLと併用することで,Bacillus subtilisやSaccharomyces cerevisiaeに対して相乗的に抗菌活性が発現することを見出し,これはγ-PABとε-PLの併用における相加的な効果とは異なる挙動となった。 「iii) 生合成遺伝子のノックアウト体の作製とpH感受性試験」についてはノックアウト体の作成に止まっており,同pH感受性試験と「iv) 菌体密度依存的生産」試験以降については2021年度に実施することになった。
|
今後の研究の推進方策 |
最終年度となる2021年度は,以下に示す項目 iii),iv),および v) について検討する。2020年度にはii) 塩基性ポリペプチド併用の相乗効果が認められていることから,これら塩基性ポリペプチドの生物学的意義を総合的に評価することを目指す。なお,iii),iv),および v) で期待されるような挙動が観測されない場合,ii) をより詳細に調査するよう対応する(用いるポリペプチドの組合せや被験菌の種類を拡張する)。 iii) 塩基性ポリペプチド生合成遺伝子のノックアウト体の作製とpH感受性試験: γ-D-PABを除く塩基性ポリペプチドは菌体が強酸性下に曝された時に生産され,またpHが中性に復帰した時には自らが生産する分解酵素に速やかに消化される。つまり酸性下ではポリペプチドを菌体表層に「まとう」ことでpH恒常性を維持していると考えられる。当該年度において,既に作成したノックアウト体について,酸性環境下における生育能を野生株と比較する。 iv) ε-PLの菌体密度依存的生産: 一部の細菌では同種の菌体密度をシグナル分子濃度から感知し,物質の生産を制御するクオラムセンシング機構が備わっている。いくつかのε-PL生産菌は高密度生育環境下でε-PL生産を抑制するという負の生産制御が行なわれていた。当該年度は,ブチロラクトン誘導体が濃度依存的にペプチド生産を抑制するか検討する。 v) ε-PLのシデロフォア能の検討: いくつかの微生物は,環境中の低濃度の鉄イオンを効率的に捕捉・利用するために,菌体外にキレート分子であるシデロファアを合成する。既にPAPが種々の重金属と錯体形成することを見出していることから,本計画では鉄イオンの培地への添加がポリペプチド生産に対し誘導的にはたらくかを調査する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初参加を予定・検討していた学会の年次大会が開催中止(第72回 日本生物工学会大会)またはオンライン開催(日本農芸化学会2021年度大会)となったことを受けて,これらへの参加を見送った。一方,本報告書の「現在までの進捗状況」に示した通り,塩基性ポリペプチド(γ-L-PABおよびγ-D-PAB)を取得するにあたり,新たな精製法の構築が必要となったため,弱陽イオン交換樹脂等の消耗品購入が当初計画を超える結果となった。これらの差額となる4,150円について,翌年度分として請求している650,000円(直接経費500,000円 + 間接経費150,000円)と合わせて執行する計画である。
|