研究課題/領域番号 |
19K05801
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研究機関 | 新潟薬科大学 |
研究代表者 |
山崎 晴丈 新潟薬科大学, 応用生命科学部, 助教 (20456776)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | Lipomyces starkeyi / 油脂酵母 / トリアシルグリセロール / 脂肪滴 / オートファジー |
研究実績の概要 |
細胞はエネルギーを脂肪滴に含まれるトリアシルグリセロール(TAG)として蓄積し,必要に応じて分解して利用する必要がある。このTAGの分解には,主とし て細胞質に局在するリパーゼによる経路が機能すると考えられてきた。最近になり脂肪滴TAGの分解にオートファジーの経路も関与することが明らかとなりつつ ある。本研究では,高度にTAGを蓄積する油脂酵母 Lipomyces starkeyi を用いてオートファジーによる脂肪滴の分解機構を解明することを目的とした。 昨年度までに隔離膜の伸長に必要なリン脂質を小胞体から直接運搬する役割を持っているAtg2の欠失株(Δatg2)は,野生型株(WT)と比べて細胞あたり最大2.2倍多くのTAGを蓄積することを明らかとした。しかしながらΔatg2は培養後期にWTと比べて生菌数が低くなり,おそらくそれが原因でグルコースの消費が止まるという現象が観察されていた。 本年度,Δatg2の生菌率をスポットアッセイにより経時的に確認したところ,培養4日目からΔatg2の生菌率はWTに比べて低下し始め,培養5,6日目にはその差がより顕著になることを見出した。さらに細胞内の活性酸素種(ROS)を定量したところ,Δatg2はWTに比べて常にROS濃度が高かった。さらに培養5日目からΔatg2の培養上清が濁って来たことから,この上清を薄層クロマトグラフィーに供したところ,Δatg2の培養上清にはTAGが含まれていることが明らかとなった。以上のことから,Δatg2はWTに比べてTAG蓄積量が多くなり,おそらくオートファジー欠損によって窒素源枯渇に対応できずに細胞内にROSが蓄積して細胞死が起こり,その結果として蓄積したTAGを細胞外に漏出しているのではないかと考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
Δatg2が細胞外にTAGを漏出したことは,酵母細胞からのTAG回収をスムースに行える可能性を見出した結果であり,応用的には予想外の大きな成果であったといえる。しかしコロナ禍で予定していた他のマクロオートファジーやミクロオートファジーの欠失株の作製とその評価などの実験を実施することができなかったため,「やや遅れている」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
他のマクロオートファジーやミクロオートファジーの欠失株の作製とその評価を行う。また野生型株においてオートファジーがいつ起こっているかについて調査する。具体的には,野生型株や各種オートファジー関連遺伝子の破壊株 において,オートファゴソームに局在するAtg8,脂肪滴に局在するErg6,液胞膜に局在するんVph1などの蛋白質にGFPタグを付け,その融合蛋白質の分解をオートファジーの指標とすることで,どの経路,時期においてオートファジーが誘導され,脂肪滴が分解されるのかを明らかにする。また脂肪滴に局在するErg6にタグを付けた株の細胞抽出液に対して,そのタグを標的として免疫沈降を行い,それを質量分析に供することで,TAG分解が誘導される時に特異的 に脂肪滴に局在化する因子を同定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
マクロオートファジー,ミクロオートファジーに関与する遺伝子の破壊株の作製とそのTAG蓄積量の評価が行えなかったことや,オートファジーが起こる時期・経路を特定するための実験が行えなかったため,繰越が生じた。繰越金はそれらに使用する予定である。
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