研究課題/領域番号 |
19K05805
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
押木 守 北海道大学, 工学研究院, 准教授 (90540865)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | アンモニア酸化古細菌 / AOA / 硝化 / 触媒分子 / タンパク質工学 |
研究実績の概要 |
今年度はアンモニア酸化古細菌 (以下、AOA)のタンパク質精製条件の検討に取り組んだ。昨年度までにMBRを用いた高密度培養法を開発し、培養菌体から1~5 mg-proteinを可溶性タンパク質として回収できた。今年度は本タンパク質を液体クロマトグラフィーへ供し、タンパク質の分離・精製を試みた。精製へ供する出発材料が数mg-proteinと少ないため、吸着能・分離能に優れた陽・陰イオン交換(Sepharose, Resource Q、S系)、疎水性相互作用分離カラム(Phenyl HP系)、ゲル濾過カラム(Superdex200)を単独あるいは組み合わせることで効率的に精製を進めた。その結果、複数回の精製を重ねることで、AOAにおける主要な電子キャリアタンパク質と考えられるタンパク質を高純度で分離することに成功した。これまでに本タンパク質の同定( N末アミノ酸シーケンスおよびMALDI-TOF/MS)を行い、1)AOA由来のタンパク質であること、2)本タンパク質が異なるAOA種間で保存され、細胞内で高発現されていることを文献から確認した。本タンパク質(以下、AOA-Ele)は著者の知る限りAOAの天然タンパク質から分離・精製された世界初のタンパク質であり、その特徴に強い興味を持っている。 AOA-Eleは金属元素を含み、電子キャリアになりうる特徴を有することからアンモニア酸化反応における電子授受に関わるタンパク質と予想しており、酸化還元電子、配位金属の同定などについて解析を進めている。 一方、高密度培養を行うMBRにて微生物コンタミ(カビの繁殖)が生じ、AOAの高密度培養を停止せざるを得ない状況が生じた。再度MBRを稼働させるには時間がかかりすぎると考えられたため、上述のAOA-Eleについて大腸菌を用いる異種発現系で大量発現させ、酵素学的特徴を解析する方針に改めることとした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
液体クロマトグラフィーを用いて、AOAタンパク質を分離・精製する工程は前年度の見通し通り順調に進めることができた。また、AOA-Eleを分離・精製する条件を見いだし、本タンパク質が得られたことの意義は大きい。しかし、菌体培養に肝心なMBRが微生物コンタミによって失われてしまったため、タンパク質精製のための菌体確保ができなくなってしまった。このトラブルによって研究計画の見直しが必要となり、このため「やや遅れている。」と評価する。この方向転換について、大腸菌を発現ホストとした遺伝子組み換え系でAOA-Eleを発現、取得する方法を現在進めている。大腸菌は倍加速度が速く、速やかに実験ができることから進捗の遅れを取り戻すことが期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度ではAOAの触媒分子のモデルとしてAOA-Eleに注力し、本酵素の酵素学的特徴を明らかにする。そのため、AOA-Eleのタンパク質発現系を構築する予定である。具体的にはタンパク質発現ベクターであるpETやpCold系ベクターにAOA-Ele遺伝子を挿入し、大腸菌で発現させる。遺伝子発現の毒性が問題になる場合にはC40などのホストの使用を検討する。不溶性タンパク質の発現が問題になる場合には発現誘導条件の見直しやシャペロンプラスミドの導入を検討する。発現させたAOA-Eleについては、液体クロマトグラフィーを用いて精製し、酸化還元電位、配位金属など、酵素学的特徴の解析を進める。
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