地下嫌気環境で硫酸還元菌が引き起こす金属腐食のメカニズム理解に資するため、本研究では固体金属から電子を引き抜くことで腐食を促進する電気腐食活性を有する硫酸還元菌3株Desulfovibrio sp. EE-1株、Desulfovibrio sp. SDB-1、Desulforhabdus sp. SDB-2株について腐食活性の評価、腐食メカニズムの推定のための電気化学的解析及び分子生物学的解析を行った。 今年度は3株のうちで最も腐食活性が高く、腐食過程において2株とは異なる電気化学特性を示したSDB-2株について最長1年間の炭素鋼腐食試験結果を実施し、腐食形態及び腐食速度を評価した。SDB-2株は試験開始1か月までに炭素鋼表面に黒色の硫化鉄からなる被膜を形成し、その後、黒色被膜下部から白色の腐食生成物を生じながら、黒色被膜を盛り上げる形で腐食を進行する特徴を持つことが明らかとなった。炭素鋼の重量減損量を指標として、SDB-2株が誘引する腐食の速度を評価した結果、7カ月間までSDB-2株による直線的に腐食は継続し、0.35 mm/年という高い腐食活性を示した。7カ月目以降は腐食速度が低下し、1年間の平均腐食速度としては0.2 mm/年であった。一方で非植菌区での腐食速度は0.01 mm/年に留まった。このような腐食形態はこれまで報告がなく、本菌株の高い電気腐食活性のメカニズムを知るうえで重要な知見を得たと言える。 また、腐食形態の違いをもたらす酵素、遺伝子を推定するために、固体鉄を単一電子供与体としてSDB-2株の培養を行い、RNA-seqによりトランスクリプトーム解析を行った。その結果、硫酸還元反応に関与する酵素に加えて、外膜に局在するタンパク質等の転写が活性化されることを見出した。これらのタンパク質のSDB-2株の特徴的な腐食反応への関与が推定された。
|