研究課題/領域番号 |
19K05808
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研究機関 | 宇都宮大学 |
研究代表者 |
鈴木 智大 宇都宮大学, バイオサイエンス教育研究センター, 准教授 (10649601)
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研究分担者 |
前川 文彦 国立研究開発法人国立環境研究所, 環境リスク・健康研究センター, 主任研究員 (40382866)
浅川 倫宏 東海大学, 海洋学部, 准教授 (80571257)
崔 宰熏 静岡大学, 農学部, 准教授 (40731633)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | キノコ / プロテアーゼ活性 / スギヒラタケ |
研究実績の概要 |
2004年、東北・北陸地方を中心に原因不明の急性脳症が発生し、その原因としてスギヒラタケ(Pleurocybella porrigens)が疑われたが、その発症機構は未解明である。我々は現在までに、スギヒラタケからレクチン(PPL)の単離・精製に成功し、そのアミノ酸配列およびcDNA塩基配列情報の取得に成功しており、PPLとマウスに致死活性を示す糖タンパク質 (pleurocybellin:PC) を混合するとプロテアーゼ活性を示し、血液脳関門を破壊することを報告している。さらに、スギヒラタケエタノール可溶部よりミエリン鞘を構成するオリゴデンドロサイトに毒性を示す(pleurocybellaziridine :PA)の単離にも成功している。それら総合的な知見から、PC-PPL複合体が血液脳関門を破壊し、その後神経細胞毒性を持った低分子化合物 (PA)がスギヒラタケ脳症に特異な脱髄病変を引き起こすという仮説急性脳症メカニズムを提唱した。 そこで本研究では上記3成分を混合して、マウス(ddY、5週齢)に腹腔内投与することでその影響を試験した。その結果、3成分同時投与群(PC、PPLおよびPA)のみで脳の海馬領域にアポトーシスによる細胞死が誘導されることを明らかにした。現在、脳切片の詳細な解析を行っている(投稿論文作成中)。 またPAの生合成経路の解明については、研究対象として利用しやすいスギヒラタケ菌糸体でもPAの存在が明らかになったほか、推定生合成前駆体の添加によって、PAの合成量が増加することを明らかにした。さらにスギヒラタケから抽出した租酵素液の添加によってもPA量が増加することを明らかにした。 さらにPCに関してはその不溶性のため、一次構造の決定には至っていなかった。本研究では、PPLと混合後にプロテアーゼ活性を示す物質を探索し、候補蛋白質の同定・一次アミノ酸配列の決定に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
スギヒラタケレクチン(PPL)と混合後にプロテアーゼ活性を示すタンパク質の探索の結果、rPPLと候補蛋白質を混合することでのプロテアーゼ活性が確認された。この結果は、非常に大きな進歩であったと考える。 またPAの生合成経路の解明については、スギヒラタケ菌糸体でのPAの存在や推定生合成前駆体の添加によって、PAの合成量が増加することを明らかにした。さらにスギヒラタケから抽出した租酵素液の添加によってもPA量が増加することが判明したため、今後その生合成酵素の単離・構造決定を進める予定である。 3成分同時投与群(PC、PPLおよびPA)を用いて、対照群・単独投与群・2成分投与群(PCおよびPPL )と比較して、脳の海馬に有意な障害が観察された。これらの結果は、我々が推定する仮説急性脳症のメカニズムを立証するデータであり、現在一流雑誌への投稿に向けて論文を作成中である。 上記結果から、概ね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
・PPLと混合するとプロテアーゼ活性を示す候補蛋白質の・蛍光プロテアーゼ基質等を用いた基質特異性試験を行う。また,その蛋白質分解活性の基質特異性について、様々な蛋白質、ペプチドの分解をMALDI-TOF-MSあるいはESI-TOF-MSを用いて解析する。また、発現した候補蛋白質とPPLのアミノ酸変異を行い、構造と活性の相関を検討する。 ・PA生合成酵素の単離・同定を進める。 ・3成分同時投与群において、BBB表面にレクチンが存在するか否かを免疫染色によって確認する。更なるメカニズム解明のため、PCとPPL複合体がBBB以外のどの器官に作用しているか、また実際のスギヒラタケの生体内ではどの組織細胞に局在しているかを調べる。
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