研究課題/領域番号 |
19K05812
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
北島 健 名古屋大学, 生物機能開発利用研究センター, 教授 (80192558)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 硫酸化シアル酸 / シアル酸 / 糖鎖 / 逆遺伝学 / メダカ / 酵素 / 硫酸化転移酵素 / 遺伝子編集技術 |
研究実績の概要 |
糖鎖付加はタンパク質の主要な翻訳後修飾のひとつである。その糖鎖の最末端の糖残基は通常シアル酸が占めており、細胞認識や接着を媒介・制御する機能を担っていることが広く知られている。しかし、そのシアル酸が更に硫酸化やアセチル化修飾される場合があることはあまり知られておらず、その修飾シアル酸の存在意義も明らかにされていない。本研究は、硫酸化に着目して、その生物学的意義の解明を目指している。具体的には、(i) シアル酸硫酸転移酵素の遺伝子の同定、(ii) 酵素の性質の解明、(iii) 遺伝子ノックアウト動物の作出を行う。各項目ごと概要を記述する。(i) SulT-Sia 遺伝子の同定: ウニとマウスの硫酸転移酵素の供与体基質結合モチーフをもつ200種類に及ぶ遺伝子から基質未知の酵素遺伝子を選び、順次、クローニングして、哺乳類細胞に遺伝子導入して硫酸化シアル酸を認識する抗体3G9に陽性細胞に変化させる遺伝子として2種類の遺伝子を同定し、目的を達成した。(ii) SulT-Sia酵素の生化学的性質の解明: SulTSiaの酵素反応は「Sia-R (受容体基質) + PAPS (供与体基質) -> 8-O-硫酸-Sia-R + PAP」である。上記2種類のSulT-Sia遺伝子について、酵素タンパク質をCHO細胞に発現させて組換え体タンパク質を調製し、その活性をin vitro反応系で確認した。その結果、糖タンパク質と糖脂質を受容体基質とする酵素であることが判明した。(iii) SulT-Sia遺伝子欠損動物の作出: 魚類メダカにも上記2種類の酵素の発現が確認できた。そこでメダカを用いて、CRISPR-Cas9法よってノックアウト個体を作出し、いずれも幼魚までに致死となることが明らかになった。シアル酸の硫酸化が動物個体の生存に関わる重要な修飾であることを初めて明らかにすることができた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究は3年間の研究期間で、(i) シアル酸硫酸転移酵素 (SulT-Sia) 遺伝子を同定すること、(ii) SulT-Siaの酵素学的性質を解明すること、(iii) SulT-Sia遺伝子のノックアウト動物を作出すること、を目標に掲げて研究を進めている。一年目において、項目(i)では、2種類のシアル酸残基特異的硫酸化転移酵素(SulT-Sia)遺伝子を哺乳類、ウニにおいて同定することに成功し、目的を達成した。項目(ii)では、2種類のSulT-Siaを哺乳類細胞に発現させ、基質特異性など酵素の性質を明らかにすることができ、ほぼ達成した。項目(iii)では、メダカを用いて2種類のSulT-Sia遺伝子のそれぞれ単独のノックアウト動物の作製に成功することができ、これらのメダカが孵化前胚および幼魚の段階で致死となることを見出し、ほぼ目的を達成した。以上のことから、一年目にして、ほぼ目標の80%は達成できたと評価している。さらに、(i)の硫酸化転移酵素のクローニングと活性の同定実験において、抗生物質G418耐性を指標にしたスクリーニングを行った。その際、細胞をG418処理するだけで細胞表面に硫酸化シアル酸残基の発現が誘導されるという現象を見出した。このG418による誘導酵素の発現はG418に対するネオマイシン耐性遺伝子の発現は不要であったため、細胞がG418刺激に応答して誘導される酵素が存在して、それが細胞表面に硫酸化シアル酸を誘導する新しい現象を発見することができた。予期せず、新しい硫酸化シアル酸の機能探索の端緒となる発見をすることができ、シアル酸の硫酸化酵素が少なくとも3種類存在することまで明らかにすることができた。
|
今後の研究の推進方策 |
3年間の研究期間で計画している3項目、(i) シアル酸硫酸転移酵素 (SulT-Sia) 遺伝子を同定すること、(ii) SulT-Siaの酵素学的性質を解明すること、(iii) SulT-Sia遺伝子のノックアウト動物を作出すること、において、項目(i)は100%達成することができた。今後は、項目(ii)と(iii)において、より詳細な解析を進めて、論文をまとめ上げてから投稿する予定である。まず、項目(ii)については、2種類のSulT-Siaの組換え体酵素を培養細胞で発現させ、種々の糖脂質および糖タンパク質を基質として基質特異性を決定する。反応生成物の硫酸化糖鎖の構造を質量分析などによって決定する。この研究は、研究協力者のフランス国リール大学およびCNRSのYann Guerardel博士との共同研究によって推進する予定であり、質量分析のための条件検討から開始する予定でアル。次に、項目(iii)については、それぞれのノックアウトメダカの致死となる時期が異なることから、その致死性の原因を探る。具体的には、各臓器の形態観察およびウェスタンブロッティングによる硫酸化シアル酸担体タンパク質の同定に挑戦する。
|