セレン (Se) は、ヒトをはじめ多くの生物にとって必須微量元素の1つであり、ヒトでは不足しても過剰にあっても重大な障害ももたらす。その代謝経路を解明するため欧米を中心に活発な研究が進んでいるが、全容解明には遠い段階にある。本研究では、Se 代謝の特性が異なる 3 種の Se 耐性細菌(Pseudomonas sp. F2a 株、Bacillus sp. NTP-1 株、Cellulomonas sp. D3a 株)を実験モデルとして、生物における Se 代謝メカニズムの解明を目指した。これらの菌株は、大腸菌や近縁菌よりもはるかに優れた Se オキシアニオン耐性能・還元能を有し、余剰 Se オキシアニオンを Se ナノ粒子として細胞外に排出する。これら菌株の全ゲノム配列を解読し、解析した結果、F2a株のみがセレンタンパク質合成系(同化能)を有することが推測された。一方、NTP-1株およびD3a株は、ゲノム上にセレンタンパク質合成系の遺伝子を持たず、Se オキシアニオンの異化的還元能のみを有すると考えられた。 Cellulomonas sp. D3a 株の亜セレン酸還元特性を解析した結果、好気下では、富栄養培地および最少培地のいずれにおいても、本菌の生育は亜セレン酸の添加により著しく阻害された。しかし、嫌気下では、富栄養培地においては高い亜セレン酸耐性能および還元能を示し、最少培地では亜セレン酸の添加濃度依存的な生育が認められた。一方で、亜セレン酸と化学的に類似するオキシアニオンを最少培地にそれぞれ添加した場合では、本菌の生育は認められなかった。このことより、本菌はグルコースを基質、亜セレン酸を最終電子受容体とする亜セレン酸呼吸システムを有することが示唆された。本菌の亜セレン酸還元酵素を同定するために、ランダム変異を導入し、亜セレン酸還元能欠損株を複数獲得した。
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