研究実績の概要 |
超好熱菌由来プロテアーゼの付加ドメインSD1が、抗体の基質結合ドメインと類似の構造をとっていることを利用して、標的に対して特異的に結合することができるbinding scaffoldを開発することを目的としたときに、大腸菌菌体内でSD1が一部不溶性発現することが問題となっていた。SD1の可溶性を上げる目的で、指向性進化と合理的設計によって SD1変異体を工学的に設計した。SD1上の表面残基とコア残基への変異の影響を解析するために、foldx上で自由エネルギー変化量を計算した。さらにSD1上の凝集しやすい領域(APR)の解析にはTangoを用い、ゲートキーパー残基の導入に伴う安定性の変化をfoldxで決定した。同定された変異体のうち、スコアの上位を占めた変異体について、大腸菌で発現させて、SDS-PAGEによって不溶性画分と可溶性画分に発現しているSD1の量を確認した。指向性進化法では、SD1変異体のスクリーニングでは、2つの変異体(S17G、S17G, I89V)が同定された。しかし、さらなるスクリーニングと選抜が必要である。SD1表面残基の変異(Y15K, W18R, S106R)により、可溶性発現が改善された。最も安定化する変異(S26I 自由エネルギー変化量 -3.33192 kcal/mol)は、SD1コア残基の極性アミノ酸から疎水性アミノ酸へのin silico変更であるが、溶解性には貢献しなかった。また、SD1のAPRに変異(S26K, Q91P)を導入すると、可溶性発現が向上した。これらの結果は、SD1タンパク質の可溶化を示唆しており、SD1のbinding scaffoldとしての課題を解決したものである。
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