研究課題/領域番号 |
19K05828
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研究機関 | 香川大学 |
研究代表者 |
田淵 光昭 香川大学, 農学部, 教授 (00294637)
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研究分担者 |
船戸 耕一 広島大学, 統合生命科学研究科(生), 准教授 (30379854)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | スフィンゴ脂質 / Sacchromyces cerevisiae / Ypk1 / 転写制御 |
研究実績の概要 |
出芽酵母は細胞膜を構成するスフィンゴ脂質の量を精密に制御することで、高温ストレスなどの環境ストレスに適応している。しかし、スフィンゴ脂質代謝の制御機構の詳細は未だに不明な点が多い。我々はセラミド合成酵素の制御サブユニットであるLip1の発現量をDoxycycline濃度依存的に調整できるPtet-off-lip1-1株を作製し、lip1-1株が有するスフィンゴ脂質合成阻害剤Myriocin (Myr)の感受性を抑圧する遺伝子として、Zinc-fingerを持つ機能未知転写因子であるMLM2 (Multi-copy suppressor for lip1-1-myriocin sensitivity gene 2)が取得した。本研究ではMlm2を介したスフィンゴ脂質代謝制御機構の解明を目的とした。Mlm2欠損株では、Myr処理による複合スフィンゴ脂質量低下が野生株に比べてさらに顕著となり、強いMyr感受性を示した。また、Mlm2過剰発現株では野生株で見られたMyr処理による複合スフィンゴ脂質量低下が抑圧され、Myrに対して耐性を示した。これらのことから、Mlm2はスフィンゴ脂質代謝制御に関与する因子であることが明らかとなった。また、Mlm2の発現量を調べたところ、興味深いことにMlm2はMyr濃度依存的に発現上昇し、これに伴いスフィンゴ脂質合成に重要なキナーゼであるYpk1の発現量も上昇した。さらに、YPK1プロモーター領域には推定のMlm2結合配列が存在し、この配列を欠失した株 (MBΔ株)はMyr処理時、Ypk1の発現量上昇が低下した。また、MBΔ株は野生株に比べMyr感受性を示したことより、Mlm2がスフィンゴ脂質の低下に伴い、Ypk1の転写を制御することでスフィンゴ脂質の合成を制御することを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の目的の一つであるMlm2の下流因子がYpk1であることを明らかにし、Mlm2のプロモーター解析によりMlm2の発現制御がプロモーター領域ではなく、Mlm2のORF領域に発現制御に関わる領域が存在することを示したことより、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策としては、下記の2点について重点的に研究をすすめる。 1)Mlm2の上流でスフィンゴ脂質量のセンシングに関わる因子の探索 Mlm2のプロモーター領域の解析からMlm2の発現調節は、Mlm2のORF領域に存在することを見出している。そこで、この発現制御に関わる上流因子を様々なキナーゼ変異株を用いて解析し、細胞内スフィンゴ脂質センシングに関わるシグナル伝達経路の上流因子を同定する。 2)Ypk1プロモーター領域のMlm2結合領域を用いたレポーター系の構築 YPK1プロモーター中の推定のMlm2結合領域(MB)を欠失させた場合、Ypk1のMyriocin依存性の遺伝子発現が見られないことよりMlm2がこの領域に結合している可能性はあるが、実際、この配列にMlm2が結合するかをゲルシフトアッセイやChIPアッセイ等により証明する。また、MB領域の最小単位を同定し、これらをタンデムで繋いだ人工プロモーターを作製し、これにLacZなどのレポーター遺伝子を融合することで、Myriocin依存的な発現をβ-ガラクトシダーゼ活性で簡便にモニターできるアッセイ系を構築する。そして、本アッセイ系を用いて、スフィンゴ脂質量をセンシングする経路に関わる因子をスクリーニングし、同定する。
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備考 |
(1)に関連して、酵母遺伝学フォーラム第52回研究報告会において、修士課程1年の小松楠於君が本科研費の研究内容で学生発表賞(口頭発表部門)を受賞した。発表題名は、「出芽酵母スフィンゴ脂質代謝制御に関わる機能未知転写因子Mlm2の機能解析」というタイトルで生体膜を構成する必須な脂質の一つであるスフィンゴ脂質の合成が転写レベルで制御されることを明らかにしたことを報告し、当学会において高い評価を得た。
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