研究課題
出芽酵母は細胞膜を構成するスフィンゴ脂質の量を精密に制御することで、高温ストレスなどの環境ストレスに適応している。しかし、スフィンゴ脂質代謝の制御機構の詳細は未だに不明な点が多く、特にステロールやグリセロリン脂質で見られるような転写制御による代謝制御機構について全く明らかになっています。我々は、出芽酵母におけるスフィンゴ脂質代謝制御機構を解析する中で、Mlm2という機能未知のZinc finger型転写因子がスフィンゴ脂質代謝に機能するプロテインキナーゼであるYpk1の転写を制御することでスフィンゴ脂質代謝を制御することを見出した。昨年度は特にMlm2がYPK1プロモーター上にあるMlm2結合配列に特異的に結合することでYPK1の転写を促進すること、Ypk1の発現上昇に伴い、スフィンゴ脂質合成量が増加することを見出した。さらに、Mlm2は、YPK1以外にもスフィンゴ脂質合成の初発酵素であるLCB1のプロモーター領域にも結合することを見出し、Lcb1の発現量も増加することを明らかにした。Mlm2は、スフィンゴ脂質合成をグローバルに制御するスフィンゴ脂質代謝のマスター転写因子であることを明らかにした。このような転写制御機構は、酵母のみならずヒトを含めた哺乳動物においても存在することが予測され、本研究により新たな転写制御を介した脂質代謝制御機構が明らかになった。現在、本研究成果について論文投稿準備中である。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画通り、Mlm2がスフィンゴ脂質代謝を制御する転写因子であることを証明することができ、現在、論文投稿準備中であるため。
Mlm2は、スフィンゴ脂質合成量の低下を感知して、Mlm2自身の発現量が上昇することで、転写制御を介してスフィンゴ脂質合成を促進する。しかし、Mlm2がどのようにしてスフィンゴ脂質量を感知し、自身の発現量を調節しているかについては全く不明である。これまでMlm2の発現はMLM2プロモーター領域には依存せず、MLM2のORF領域にその発現量の制御に関わる領域が存在することを明らかにしている。現在、MLM2 ORF領域に特異的に結合するタンパク質候補Aを同定しており、候補Aが実際にMlm2の発現量にどのように影響するかを調べている。スフィンゴ脂質量をどのように細胞が感知しているのかについては、動物細胞を含め全くわかっておらず、酵母を用いた解析によって、これが明らかになれば、ヒトを含めた真核生物全般に保存されたスフィンゴ脂質感知システムを明らかにできるものと考えている。
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