研究課題
本研究では、シロイヌナズナの花粉栄養細胞と孔辺細胞の形成時期を対象に、細胞分裂に伴う色素体の増殖と細胞内局在を調査することを目的とする。本年度は、シロイヌナズナのアクセッションにより一孔辺細胞中の葉緑体数が変動するという昨年度の知見を踏まえ、非交配型の葉緑体分裂異常変異体を用い、数千の孔辺細胞の葉緑体数を改めて調査した。以前、当研究室ではCol由来の色素体蛍光標識系統と変異体との交配体を用いて葉緑体数を解析していたが、今回のデータの再評価により変異体間の厳密な表現型比較が可能になった。これと関連して、本年度は過去の知見が不十分であった葉緑体分裂位置異常変異体arc3、atminD1、mcd1を用い、孔辺細胞の葉緑体数と形態を重点的に調べた。まず、3種のarc3変異体の成熟葉を用い100対の孔辺細胞を観察した。その結果、全ての変異体で一細胞あたりの葉緑体は野生型とほぼ同数であることが示された。細胞内には野生型並または大小様々な葉緑体集団の形成が見られた。続くatminD1変異体とmcd1変異体の解析でも、同様の結果が得られた。さらにmcd1変異体については孔辺母細胞と初期孔辺細胞の解析も行い、孔辺母細胞の段階でmcd1の細胞内葉緑体数は野生型と同数であること、孔辺母細胞の分裂時に葉緑体は2つの娘細胞に等分配される傾向にあることが示された。以上の葉緑体分裂位置異常変異体の孔辺細胞の葉緑体表現型は、葉緑体の増殖阻害とサイズの差異が顕著に現れる葉肉細胞のものとは対照的であった。これより、葉緑体分裂制御には組織依存性があるという近年の分野の見解がさらに支持されることになった。
2: おおむね順調に進展している
昨年度に続き、今年度も首都圏の新型コロナウイルスの蔓延により研究活動は抑制された。予定していた葉緑体分裂異常変異体の花粉色素体解析は実施できなかった。しかし、今年度は新規の変異体解析により、孔辺細胞の葉緑体増殖・分配現象に関して予想以上の結果を得ることができた。従って、全体的にはおおむね順調と判断され、今後に期待ができる進捗状況となった。
次年度は、昨年度と今年度実施できなかった花粉形成過程の色素体微細構造解析を優先的に行う予定である。実験材料・方法に関して支障はなく、計画に沿って実施可能であると考えられる。また、次年度に予定している花粉栄養細胞と孔辺細胞の解析も、研究計画通り実施に努める。
今年度も研究機関内の新型コロナウイルス防止対策を受けて実験計画の見直しを行った。一部の消耗品の購入を見送ったり逆に別の消耗品を購入するなどの変更をしたことが影響した。全体的には、当該年度の研究遂行に大きな支障を来さない形で予算使用を行うことが出来た。本差額は次年度消耗品費として使用予定である。
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巻: 10 ページ: 848
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