研究課題
本研究は、シロイヌナズナの花粉および気孔孔辺細胞の色素体が細胞増殖時にいかに増殖・分配されるのかという問いについて基礎知見を得ることを目的としている。本年度は、まず花粉減数分裂期の色素体の形態および細胞内局在を電子顕微鏡解析により調べた。花粉減数分裂の第一分裂では、細胞の中央でオルガネラバンドと呼ばれる細胞質オルガネラの集積が生じることが知られている。花粉色素体の増殖にはFtsZとPARC6が重要であるという既知の知見を踏まえ、ftsZ変異体とparc6変異体を用いて解析を行ったところ、parc6変異体の試料でオルガネラバンドと原色素体の形態・分布の明瞭な情報を得ることができた。以前、parc6の原色素体は細胞質中で異常なブドウ様の凝集構造を作ることがストロマ蛍光標識法によって観察されていたが、そのデータを裏付ける結果が得られた。さらに今年度は、本課題の重要解析対象であるftsZ変異体の孔辺細胞の形成過程を集中的に調べた。孔辺母細胞、形成直後の孔辺細胞、および成熟孔辺細胞の葉緑体(色素体)を観察したところ、一細胞あたりの葉緑体の数と形態について一連の情報が得られた。この解析によって、ftsZ変異体の孔辺母細胞には葉緑体を欠失した細胞も存在することが示された。これ以外にも、本年度は葉緑体分裂異常変異体arc3、arc5、arc6、atminD1、atminE1、mcd1の孔辺細胞葉緑体の数と形態について、過去のデータと合わせ一揃いのデータを得ることができた。これにより、孔辺細胞葉緑体の表現型を総合的に解釈することが可能となった。
2: おおむね順調に進展している
今年度は予定していた花粉母細胞の色素体微細構造解析を行うことができた。孔辺細胞の葉緑体増殖解析についても、計画内容をほぼ実施することができた。ただし、取得データを用いた次の段階の解析に関して課題が一部残されることになった。従って、全体的には、おおむね順調に進展していると判断された。
これまでの研究により、実験レベルの課題はおおむね達成することができた。他方、取得した葉緑体数や顕微鏡画像などの基礎データを用いて定量的な精査やシミュレーション解析を行う作業が残っている。補助事業期間の延長の承認が得られたため、次年度はこれらの解決に努める予定である。
今年度も首都圏の新型コロナウイルスの蔓延状況から、一部の研究計画の見直しを行った。全体的には当該年度の研究に支障を来さない形で予算を使用したが、前項の通り一部の解析は完遂できなかった。そのため、補助事業期間の延長を申請し、次年度にシミュレーション解析、見直しによって生じた追加実験、および研究成果発表について助成金を使用する予定である。
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Chemistry-A European Journal
巻: 29 ページ: e202203396
10.1002/chem.202203396
RIKEN Accelerator Progress Report
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