研究課題/領域番号 |
19K05832
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
渡邉 寛人 明治大学, 農学部, 専任教授 (20270895)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | メイラード反応 / 糖化反応 / RAGE |
研究実績の概要 |
糖尿病患者においては、形成された糖化タンパク質(AGE)がその細胞膜受容体であるRAGEを介して糖尿病合併症発症をひきおこすことが知られている。近年われわれはRAGEが認識するAGEの特性を解析し、RAGEが3-ヒドロキシピリジニウム(3HP)構造を有するAGEを結合し、細胞に作用することを見出している。加えて、3HP構造を含むコラーゲン架橋分子であるピリジノリンがRAGEの内在性リガンドとして機能しうることを明らかにしている。これら背景から本研究は、3HP構造をもつ新奇AGEの構造と特性を解明することによってRAGEの病理学的意義をさらに明確にすること、および新たに見出したRAGEリガンドであるピリジノリンの作用を明らかにすることによって、RAGEの新たな生理学的意義を解明することを目的として実施している。 本年度は新奇AGE構造の解析を重点的に遂行した。とくにある種の代謝異常で増大するラクトアルデヒドに着目し、これに由来するAGEの単離およびその構造解析を行った。具体的にはモデル反応系としてNα-アセチルリジンとラクトアルデヒドを反応させ、逆相HPLCにより生成物を精製し、その構造をLC-ESI-QTOF-MSおよびNMRにより解析した。さらにラット神経細胞PC12に対する毒性を評価するとともに、組換えRAGEタンパク質との相互作用について表面プラズモン共鳴法により解析した。その結果、ラクトアルデヒドによりリジン残基に形成される3-ヒドロキシ-5-メチルピリジニウム構造を同定し、この化合物がPC12細胞に対し毒性を発揮するとともにRAGEへの結合性を有することを明らかにした。ラクトアルデヒドはジカルボニル代謝の異常のほか、好中球の関わる炎症反応においても増大することが報告されており、これらに関連した疾患に新奇AGEとRAGEの相互作用が関わる可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
RAGEに結合して細胞に作用を示しうる新奇AGE構造を同定し、ジカルボニル代謝異常や炎症に関連する疾患の発症におけるRAGEの新たな病理学的意義が提示した点で大きな進展があったと考えられる。またこれらは3HPをもつAGE構造を重点的に解析する意義をさらに明確に示したものであり、RAGEの関わる疾患発症メカニズムの研究において重要な成果と考えられる。一方、ピリジノリンの作用については、骨形成・分解に関わる細胞に着目した解析基盤の確立は順調に進捗しているが、成果を挙げる段階には至っていない。
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今後の研究の推進方策 |
RAGEの病理学的意義に関しては、ラクトアルデヒド由来新奇AGE構造の特性や作用をさらに詳細に解析することにより解明する計画である。具体的には細胞毒性発現機構を詳細に解析するとともに、遺伝子発現変化に対する作用などを解析する。とくにジカルボニル代謝異常により惹起される神経疾患への関与を考慮し、ミクログリアへの作用、とくに炎症関連遺伝子の発現におよぼす新奇AGEの作用を解析する。ラクトアルデヒドとの反応によって、タンパク質リジン残基に同様のAGE構造が形成されるか否かは、体内での毒性発現を考慮すると重要な解析課題と考えられる。したがってこの点についてもモデルタンパク質との反応系を用いて化学的解析を進める。さらに培養細胞にラクトアルデヒドを添加した場合に、細胞タンパク質にこのAGE構造が形成されるか解析を行う。 RAGEの新たな生理学的意義については、ピリジノリンの作用解析をとおしてその解明を図る。コラーゲン架橋分子であるピリジノリンがコラーゲンの分解にともなって遊離することをふまえ、コラーゲン分解をともなう骨吸収と、それにひき続く骨形成におけるピリジノリンの作用に重点をおいて解析を実施する計画である。具体的には、骨吸収に関わる破骨細胞と、骨形成に関わる骨芽細胞の分化・機能に対するピリジノリンの作用を解析する。破骨細胞についてはマウスRAW264細胞の分化において、ピリジノリンが分化関連遺伝子の発現を低下させる作用を有することを見出しつつあり、その詳細を明らかにすべく検討を行う。骨芽細胞に関してもマウスMC-3T3E1細胞を用いた分化・機能制御解析の基盤は確立されつつあり、遺伝子発現や骨基質形成に対する作用について検討する。これらに加え、食品由来ピリジノリンの生体内での作用を解析する基盤として、腸管上皮細胞層におけるピリジノリンの吸収特性についても解析を行う計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
計画的な使用を行ったため、未使用額はごくわずかとなった。これを含めて次年度も有効に研究遂行に使用する計画である。
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