研究課題/領域番号 |
19K05836
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
尾崎 太郎 北海道大学, 理学研究院, 助教 (40709060)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 生合成 |
研究実績の概要 |
2019年度はzopfiellin (ZFL) を対象に研究を行い、モノマー生合成・二量化・酸化に関わる遺伝子を異種宿主である麹菌へ段階的に導入し、生合成経路の再構築を検討した。無水マレイン酸型モノマーを生産する形質転換体は既に構築済みであったため、これを宿主として二量化酵素遺伝子を共発現し、形質転換体の代謝産物を分析した結果、二種の二量体が生産されることを明らかにした。これらの化合物はZFL生産菌培養液からも検出され、それぞれNMRや質量分析等により構造を決定した。ZFLは8員環骨格を有する二量体であるが、二種の二量体はいずれも9員環骨格を有していた。これらのいずれかが生合成中間体であると予想し、続いて酸化酵素ZopKによる変換を試みた。麹菌を宿主とした異種発現及び組換え蛋白質を用いた酵素反応の解析から、ZopKが一方の9員環型二量体を連続的に酸化し、8員環型二量体へと変換することを示した。さらに炭素の安定同位体で標識した前駆体を生産菌や麹菌形質転換体へ投与して培養することで、ZFLや9員環型中間体の標識化合物を得た。それぞれの標識パターンの比較から、ZopK反応の過程で酢酸に由来する炭素原子が一つ失われていることを見出した。この観測結果に基づき、ZopKによる反応機構を提唱し、学術誌に報告した (Org. Lett. 2020) 。 直鎖構造を有する酸無水物多量体cordyanhydride (CAD) についても候補遺伝子群を麹菌で異種発現したが、期待した生成物は得られなかった。また、モノマー生合成に関与するアルキルクエン酸合成酵素とアルキルクエン酸脱水酵素を組換え蛋白質として発現し、精製酵素を用いて酵素反応を検討した。不飽和脂肪酸のCoAエステルとケト酸を基質として二種の酵素による連続反応を試みたが、活性を検出することはできなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画通り、2019年度はZFLの生合成研究を実施した。麹菌異種発現による二量体の生産、酸化酵素による9員環の環縮小反応の詳細な解析により、期待した通りZFL生合成経路のほぼ全容を解明したといえる。また、本成果については既に学術誌に発表済みである。 CADについても異種発現による生合成経路の再構築を試みたが、CADや関連化合物を生産する形質転換体を得ることができなかった。導入した遺伝子の転写やスプライシング等を確認し、一部の遺伝子ではスプライシングに異常があることが示唆された。あらかじめイントロンと推定される領域を除いた配列での異種発現も試みたが、活性の検出には至っていない。そのため、生産菌での遺伝子破壊など計画の変更が必要である。精製酵素による解析も試みたが、二種の酵素による連続反応では活性が検出できなかった。機能解析済みの相同酵素 (例えばZFL生合成酵素) を利用できることから、それらと連続反応を行うことで、各酵素の活性を個別に評価する予定である。これにより反応条件を最適化することで、モノマーの生合成経路を解明できるものと期待している。 2020年度に実施予定のphomoidride (PMD)の生合成についても準備を進めた。PMD生合成における無水マレイン酸型モノマーを生産する麹菌形質転換体は過去の研究で構築済みである。しかし、既に複数の選択マーカーを使用済みであるため、追加で導入できる遺伝子の数には制限があった。そこで二量化や酸化等の後期生合成を検討するために多重の遺伝子導入が必要となることを考慮し、選択マーカーが再利用可能な形質転換系でモノマー生産株を再構築した。得られた形質転換体がモノマーを生産することを確認済みであり、2020年度の計画を実施する準備が整っている。以上の状況を総合し、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
ZFLについては、二量化酵素と考えられるZopCとZopNを組換え蛋白質として発現・精製する。これまでに構築した形質転換体から無水マレイン酸型モノマーを精製し、これを基質とした酵素反応による二量化反応機構の解析を進める。 CADについては異種発現での機能解析が難航したことから、CAD生産菌の遺伝子破壊により多量化酵素遺伝子の同定・解析を試みる。二回交差の相同組換えによって標的遺伝子座を抗生物質の耐性遺伝子と置き換えた、多量化酵素欠損株の作製を計画している。得られた形質転換体をCAD生産条件で培養し、代謝産物を分析する。この形質転換体はCADの生産能を失い、無水マレイン酸型モノマーのみを蓄積すると考えられる。遺伝子破壊実験によって多量化酵素遺伝子が同定できたならば、組換え蛋白質を発現・精製し、酵素反応を試みる。また、精製酵素によるモノマーの生合成経路の解析を継続する。2019年度に実施したアルキルクエン酸合成酵素とアルキルクエン酸脱水酵素の連続反応では活性が検出されなかったことから、各酵素の発現・精製方法や反応条件が適切ではない可能性が懸念される。ZFL生合成におけるモノマー合成酵素ZopJ及びZopIは既に機能解析済みであるため、これらの酵素との連続反応に供し、各酵素の発現・精製方法や反応条件を最適化する。 2020年度は、新たにphomoidride (PMD) の生合成研究にも取り組む。2019年度に準備したモノマー生産株に、二量化に関わると推測される遺伝子を導入し、モノマーの二量化を試みる。得られた形質転換体を培養し、LCMS等の分析機器を用いてモノマー生産株の抽出物と比較分析を行い、二量化酵素遺伝子発現株に特異的な化合物を探索する。生成物が同定できた場合は、カラムクロマトグラフィーなどにより精製化合物を得たのち、NMRや質量分析などを用いて化合物の構造を決定する。
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