研究課題
薬剤耐性菌発生の主要因として抗生物質の過剰使用が挙げられる。抗生物質の使用対象でもっとも多いのはヒトではなく家畜であり,その用途は治療目的のみにとどまらず,健康な家畜の生育促進を目的とした飼料添加にまで及ぶ。これにより,畜産現場では抗生物質が過剰に使用され,薬剤耐性菌発生の温床になっている。飼料添加剤としてもっとも汎用される抗生物質の1つがmonensinである。このものを特定の病原菌に特異的に輸送することができれば,他の菌に対する選択圧を下げることができるので,薬剤耐性菌発生リスクの低減が期待できる。そこで,本研究では,家畜感染症起因菌としてもっとも代表的な黄色ブドウ球菌に特異的なペプチドをmonensinを連結することで,薬剤耐性菌出現リスクの低い,新規抗菌剤の開発を目指した。黄色ブドウ球菌を特異的に認識するペプチドについては,共同研究者が見出した候補配列を使用することにし,固相法によってその合成を完了した。一方,monensinの変換については,既知の構造活性相関を参考に26位ヒドロキシ基をカルボン酸誘導体に変換し,この部位を足がかりにペプチドと連結することにした。市販のmonensinナトリウム塩を出発原料に,10工程の変換で末端アルキン部位を有するmonensin誘導体を取得した。また,本コンセプトへの応用を念頭に入れ,hetiamacin等のいくつかの生物活性天然物の合成研究も進めた。
2: おおむね順調に進展している
共同研究者によってファージディスプレイ法を利用して見出された黄色ブドウ球菌特異的ペプチドを固相法によって合成した。Monensinの誘導体については,既知の構造活性相関研究を参考に,連結前駆体として26位がカルボン酸誘導体となった化合物を使用することにした。その調製については,当研究室でこれまでに見出されているmonensinに関する知見を元に進め,その結果,monensinの26位のプロパルギルアミド誘導体(monensinアミド)を10工程で調製した。25位の保護に適当な保護基を見出すのに時間を要したが,目的化合物の合成経路確立に1年程度を見込んでいたので,想定通りと考えている。
これまでに調製を完了したペプチドおよびmonensin誘導体をクリック反応によって連結し,生物活性試験に供する予定である。この際,ペプチドの主鎖を修飾した誘導体と側鎖を修飾したものを調製し,それらに関して活性試験を実施して最適な修飾位置を探索する。また,現在,monensinアミド合成経路の短工程化も進めている。
当初の計画に比べて生物活性試験を行う機会が少なかったために,その分の経費に未使用分が発生した。目的とする化合物の合成が間近であり,次年度は生物活性試験を行う機会が増えると予想されることから,「次年度使用額」分の経費を生物活性試験のための経費に充当する予定である。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 4件) 学会発表 (10件) (うち国際学会 2件、 招待講演 2件) 備考 (1件)
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