研究課題/領域番号 |
19K05843
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
宮川 恒 京都大学, 農学研究科, 教授 (10219735)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | オーキシン / インドール-3-酢酸 / 塩ストレス / グルタミン酸 / イネ |
研究実績の概要 |
イネの塩ストレス処理に対するオーキシンの応答を明らかにするため、発芽後5日のイネ幼苗(品種: 日本晴)を対象とし、水耕栽培条件下で塩ストレス(0.2 M NaClを添加)処理(24時間)した後に、抽出・固相カラムによる前処理の後、LC-MS/MSによりIAAと8種の代謝物をそれぞれ定量した。その結果、ストレス処理したイネではIAA代謝物の組成に顕著な変化が見られ、特に地上部でIAAグルタミン酸抱合体(IAA-Glu) のレベルの増加が顕著であった。この結果は予備実験でも得られていたものと同様であったが、実験を繰り返すうちにしばしば植物の応答性が変化し、確かにコントロールに比べて変化は見られるものの、組成の変化パターンが一定とならないことがおこる問題に直面した。用いる種子サンプルやグロースチャンバーの状態などをチェックしたが変動要因の解明には至らず、IAA代謝では、その変換に関わる複数の経路がさまざまに相互作用しており、植物がストレスに応答する際の生理状態および応答変化のタイミングや程度の違いによってそれぞれの反応の活性が微妙に変化し、結果的に代謝物のプロファイルをかなり変化させてしまうものと考えられた。 個々の代謝物レベルに関する再現性の低さに問題は残るものの、IAAと代謝物のモル濃度の合計でみると塩ストレスによる確実な増加が認められた。これによりIAAだけを分析対象としては見えにくかった塩ストレス応答としてのオーキシン代謝の活性化が明らかになった。また、IAA-Gluの顕著な増加が観察されたことから、塩ストレスに伴う主要アミノ酸濃度の変化をLC-MS/MSを用いて調べた。その結果、Gluの濃度が地上部で1.4倍、根部で3.2倍に増加することが判明した。一方でAspの濃度には変化が見られなかったことから、アミノ酸濃度の変動がIAA-Glu増加の要因の1つとして考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
上記概要にも書いたように、実験に用いたイネのストレス応答性がばらつき、データの再現条件の確認と対処に手間取っている。また予想以上に学内の用務にエフォートを割かれ、本研究に取り組む時間が十分にとれてない。
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今後の研究の推進方策 |
当初の予定どおり、塩ストレスによるイネのIAA代謝プロファイルの変化を日本晴以外の品種で調べるとともに、他のイネ科植物、イネ科以外の好塩性植物で検討していきたい。ただし本年度観察されたようにストレスによる代謝プロファイルの変動は、植物の生理・生育条件等によって影響を受ける様子なので、実験条件に細心の注意を払う必要がある、また代謝物個々の変動だけでなく代謝プロファイル全体としての変動をデータとして可視化する方法を考えることで、応答にともなうオーキシン代謝活性化をより明確に捉えていきたい。 また、植物の状態により応答が変化する中でIAA-Gluの増加は確実に再現性が見られる。この増加のメカニズムの解明に向け、IAAのアミノ酸抱合を触媒する酵素遺伝子の発現量測定と活性測定のための発現系調製の準備に早急に取りかかることとする。 一方、近年Gluの植物における傷害シグナル物質としての機能が報告されている (Toyota et al., 2018)。今回観察された塩ストレスによる濃度変化はこの機能に関連していることが考えられる。IAA代謝でもなぜかIAA-Gluの特異的な濃度上昇が見られ、これがGluの増加とどのような関係があるのか興味が持たれるが、いずれにせよ塩ストレス応答におけるGluの関与とオーキシン代謝への影響は調べる価値があるように思われる。次年度以降、イネをGluで処理してIAA代謝物の組成に何らかの変化がおこるかを調べてみたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
予算残額(144円)に適した使用用途が見つからず、次年度予算に繰り越す方が有効に使用できると考えた。 消耗品類の購入に充てる予定である。
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