研究実績の概要 |
生物活性物質の新しい合成法に寄与しうる、3つの手法のうち、2)鎖状ポリオールを基質とし、化学的手法・リパーゼ触媒による脱アセチル化など位置選択的変換の検討を重点的に行った。リパーゼによるエステルの加水分解やアルコールのエステル化は、立体障害、脱離能、求核剤の性質に大きな影響を受けることが知られているが、鎖状ポリオールでさらに深く検証した。 具体的には、キノコの一種オオモミタケから単離され、11β-HSD阻害作用を示すカタセラスモール類(C, D, E)を、同一骨格を持つD-グルタミン酸から網羅的に合成した。出発原料から誘導したペンタン-1,2,5-トリオールに対し、Candida antarcticaリパーゼ Bを触媒とし酢酸ビニルを用いたアシル化で、カタセラスモールEが定量的に得られた。アセチル化の位置選択性はリパーゼの種類や基質の絶対立体配置に影響を受けた。(R)-体のトリオールでは二か所の第一級アルコールのみがアセチル化されたが、(S)-体では第二級アルコールがアセチル化された化合物が副生した。Burkholderia cepaciaリパーゼを触媒とした場合も反応性が低下した。本合成ではカタセラスモールEの両鏡像体を合成し、比旋光度の符号の比較により、従来提唱されていた天然物の絶対立体配置を確認した。 重クロム酸酸化(78%)によりカタセラスモールCとし、カルボニル基に隣接する1-位の選択的脱保護(53%)によりカタセラスモールDを得た。位置選択的脱保護にはBurkholderia cepaciaリパーゼを触媒とし、メタノールを求核剤とするエステル交換が有効であった。ルイス酸Sc(OTf)3触媒による反応の選択性、あるいは、Candida antarcticaリパーゼ Bを用いた反応の選択性を大幅に上回った。
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