研究課題/領域番号 |
19K05849
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
須貝 威 慶應義塾大学, 薬学部(芝共立), 教授 (60171120)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 天然配糖体 / 生物資源 / 高圧蒸気滅菌器 / 加水分解 / 半合成 |
研究実績の概要 |
生物活性物質の新しい合成法に寄与しうる、3つの手法のうち、3)配糖体を出発原料として活用する半合成の試みについて重点的に検討した。フラボノイドは天然資源として、しばしば配糖体の形で産出されるが、アグリコンや単糖配糖体に変換して利用する場合には、効率よく、かつ選択的な糖部分除去の条件確立が求められる。天然より得られるフラボノイド配糖体の中には、有用な生物活性を示すものの、ごく少量しか得られない化合物が多く、それらを安価・大量に入手可能な出発原料から効率よく合成する手法の確立は非常に重要である。 具体的には、ウーロン茶の茶葉から単離されたチャフロシドBの新しい調製法について検討した。チャフロシドBは皮膚に対しUVB保護作用を示す化合物である。しかし茶葉中の含有量は非常に少ない(1 gあたり29.4 ng)ので、天然資源から容易かつ大量に得られる材料から「半合成」する量的供給が望まれている。本研究では、野菜「つるむらさき」(Basella alba)に含まれるD-アラビノフラノシルビテキシンを、高圧・高温条件において温度および時間を精密にコントロール可能な高圧蒸気滅菌器(オートクレーブ)中で熱水抽出した溶液を酸加水分解し、チャフロシドBと同一の炭素骨格を持つビテキシンを得た。 実験では、栽培、生産時期が異なる、徳島産、宮城産、秋田産を比較した。どの産地のツルムラサキを用いても、得られた量に差はほとんどなかった。同一の品種で、栽培法にも違いがないと考えられる。なお、粗生成物はアセチル化を経て簡易的なシリカゲルカラムクロマトグラフィーで十分に精製可能であった。 ビテキシンは光延法で閉環し、チャフロシドBとした。「つるむらさき」生葉1 gを出発原料にした場合、約600 μgの1aが得られることから、ウーロン茶から抽出・製造する方法に比べ格段に効率が良い。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究申請当初、生物活性物質の新しい合成法に寄与しうる、以下の3つの手法について検討することとした。1) 酵素触媒(微生物全菌体、市販単離還元酵素) による立体選択的な第二級アルコールの合成、2) ポリフェノールを基質とし、化学的手法・リパーゼ触媒による脱アセチル化など位置選択的変換の検討、3)天 然に豊富で、入手容易な配糖体の活用である。本年度は3)について特段の成果を得て、研究実績にその内容を紹介した。最終年度は現在進行中の研究について補完を重ね、成果を全て公表可能なレベルに達するよう努力する。
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今後の研究の推進方策 |
前年度と同様、当初設定した目標に沿って、上記の1) 2)の生成物を活用し、有用生物活性物質の全合成を、そして3)の生成物から出発する半合成が最終的な目標である。抗炎症性、抗菌活性等をもつテルペン、ポリフェノール類などを合成標的化合物とする。 いずれの手法検討においても、当初掲げた推進方策に従い「選択性の向上」および「鍵段階の効率向上」を重視する。
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