研究課題/領域番号 |
19K05850
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研究機関 | 上智大学 |
研究代表者 |
齊藤 玉緒 上智大学, 理工学部, 教授 (30281843)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 有機ハロゲン化合物 / 生合成 / ポリケタイド合成酵素 |
研究実績の概要 |
細胞性粘菌の Steely酵素は、I型ポリケタイド合成素(PKS)とIII型PKSが融合するという特異な構造を持つ唯一のPKSである。 これまでの研究によって、SteelyB酵素がI型PKSとIII型PKSを切り離してLCC-1という塩化ジベンゾフランを合成していることを発見した。本研究ではSteelyB酵素の構造変化、つまり二つのPKSの融合と切り離しの意義を問い、産物である有機塩化化合物は次世代に命をつなぐ子実体にとってどのような意義があるのか、その生態学的な意義の解明を目指す。 20年度は生合成研究を中心に行う予定であり、まず、前年に解析したSteelyB酵素のin vivo再構成実験の再現性の確認を行った。しかし、COVID-19感染拡大に伴い実験室の使用が制限されたため時間がかかるin vitro再構成実験は実施することが困難であると判断した。そのため実験内容を精査し生合成経路の推定を図る実験を代わりに組み込んだ。これまでの研究からSteelyB 酵素は(2,4,6-trihydroxyphenyl)-1-hexan-1-one (THPH)を合成し、これをもとにジベンゾフラン骨格ができると推定していた。しかし、塩素付加はいつ行われるのかがわかっていなかった。そこでstlB欠損株に前駆物質としてTHPH, Cl-THPH, diCl-THPHを与えるフィーディング実験を行い、産物であるLCC-1が合成されるかを確認した。その結果、Cl-THPHを前駆物質として与えた時が最も効率よくLCC-1を合成したことから、塩素を付加したCl-THPHを合成してからジベンゾフラン骨格が合成されると推定できた。また、塩化ジベンゾフラン化合物のマイナーな成分の構造の確認と抗菌活性については、再度精製をして検証を試みた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
COVID-19感染拡大にともなう実験室使用の制限から、時間のかかる実験が実質的にできなくなったため、20年度の実験について再検討を行い当初の計画通り進まない場合の対応を取らざるを得なかったため。
具体的進捗状況としてはマイナーな成分の抗菌活性については十分な検証ができなかったが、in vivo再構成実験の再現性の確認は行うことができた。 本年度の中心的課題であったin vitro再構成実験は時間がかかる実験であったため実施することが困難であると判断し、実験手法を見直すことによって限られた時間の中でも一定の成果を得ることができた。また、次年度に予定していた生態学的解析についても一部を前倒しして着手した。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は本来であれば20年度に行うはずであった、in vitro再構成実験を行う。すなわち、III型PKSは短鎖のアシル-CoAを基質とし、マロニル-CoAを伸長ユニットとして複数の産物を作ることができるかを中心に解析を進める。同時に、抗菌活性を検証するため大量培養とマイナーな塩化ジベンゾフランの精製を行う。 産物の生態学的な意義の検証は一部前倒しで着手しているので、その継続としてstlB欠損株を使ってsentinel cellが見られるのかを検証し、土壌環境での子実体形成を観察することによって遅れを取り戻す。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19感染拡大に伴い実験室の使用が制限され、実験時間の確保が難しくなったため次年度使用額が生じた。次年度使用額は主にin vitro再構成実験に関わるものであるため、残された研究内容と組み合わせて次年度に取り組む計画でありその中で使用する。
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