研究課題/領域番号 |
19K05853
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研究機関 | 長浜バイオ大学 |
研究代表者 |
向井 秀仁 長浜バイオ大学, バイオサイエンス学部, 教授 (20251027)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | クリプタイド / 生体機能物質 / 自然免疫機構 / 好中球 / 肝傷害モデル / エンドトキシン / 炎症 / 活性発現の分子機構 |
研究実績の概要 |
虚血性疾患などの内因性組織傷害ばかりでなく、感染症を伴う組織傷害においても、それらの病態にミトコンドリア傷害関連分子パターン(mtDAMPs)が深く関与していることが示されているが、mtDAMPsを構成する分子およびそれらの化学構造については未だに解明されていない。本研究では、このmtDAMPs構成分子、すなわちmtDAMPs中に存在する自然免疫調節分子群の化学構造を決定し、それら同定した因子の様々な炎症性疾患における病態生理学的役割を解明することを目的としている。 本年度は、すでに研究代表者らが同定している一群の自然免疫活性化因子、マイトクリプタイドのうち、マイトクリプタイド-2(MCT-2)およびその誘導体について、好中球様に分化したHL-60細胞(分化HL-60細胞)における受容体活性化の選択性を検討した。その結果、MCT-2の7残基以上のアミノ末端誘導体は、分化HL-60細胞が発現する2種類のホルミルペプチド受容体であるFPR1ならびにFPR2のうち、FPR2を特異的に活性化するがFPR1は活性化しないこと、それに対し アミノ末端4残基誘導体MCT-2(1-4)は、FPR1を特異的に活性化するがFPR2を活性化しないこと、さらにアミノ末端5残基および6残基誘導体MCT-2(1-5)およびMCT-2(1-6)は、FPR1、FPR2両者を活性化することが示された。昨年度の検討により、MCT-2は血液中で経時的に代謝・分解されることにより、MCT-2(1-11)、MCT-2(1-10)ならびにMCT-2(1-4)が生じることが明らかとなっていることから、傷害組織から放出されたMCT-2は、まずFPR2を活性化することにより自然免疫応答を惹起した後、分解されることによりMCT-2(1-4)となることで、今度はFPR1を活性化することにより、異なる機能を示す可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、mtDAMPs中に存在する、未だ同定されていない自然免疫活性化物質の化学構造を決定・同定するとともに、様々な炎症性疾患におけるそれら物質の役割を解明することを目的としている。すでに研究代表者らが同定しているミトコンドリア由来の一群の自然免疫応答活性化因子、マイトクリプタイドのひとつであり、そのアミノ末端がホルミル化されたペプチドであるMCT-2について、本研究の初年度である昨年度の検討により、mtDAMPs中にMCT-2が存在していること、また様々な炎症性疾患においてmtDAMPsが放出されることが知られている血液中においてMCT-2が代謝・分解され、そのアミノ末端誘導体であるMCT-2(1-11)、MCT-2(1-10)、MCT-2(1-4)が産生されることが示されている。また2年度目にあたる本年度の検討により、2種類のホルミルペプチド受容体であるFPR1ならびにFPR2を内在的に発現する好中球様細胞において、MCT-2ならびに7残基以上のアミノ末端誘導体は、FPR2受容体を特異的に活性化するがFPR1は活性化しないこと、これに対し4残基からなるアミノ末端誘導体MCT-2(1-4)は、炎症反応の抑制および細胞増殖・組織再生に関わることが示されているFPR1受容体を特異的に活性化するが、FPR2は活性化しないことが示され、MCT-2が自然免疫応答の惹起から終息・再生の全般に関わる因子であることが示唆された。また本年度までの検討により、MCT-2に対する中和抗体(MCT-2(1-4)には結合しない)が、肝傷害をはじめとした薬剤誘導性の組織傷害を顕著に抑制し、組織再生を導くことが示されており、MCT-2が多臓器不全をはじめとした急性炎症性疾患の発症に関わるキーファクターである可能性が示されている。このように本研究は、ほぼ当初の研究計画通りに進捗していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
上述したように本研究では、虚血性疾患やリュウマチ、アルツハイマー病などの感染を伴わない炎症性疾患ばかりでなく、細菌やウイルス感染に伴う組織傷害、さらにはその結果もたらされる多臓器不全の病因として深く関わっている可能性が高いmtDAMPsについて、未だ具体的分子種が不明であるそれらを構成する自然免疫調節因子の化学構造を決定し、様々な炎症性疾患におけるそれらの役割を解明することを目的としている。そしてまず、先行研究おいて、世界に先駆けて同定したミトコンドリアタンパク質由来の新規好中球活性化ペプチドであるマイトクリプタイド-1 (MCT-1)ならびにMCT-2をはじめとした一群の生理活性ペプチド、「マイトクリプタイド」(MCTs)について、mtDAMPsを構成する自然免疫調節因子である可能性について検討を行っている。その結果本年度までに、すでに研究代表者らが同定しているマイトクリプタイドのひとつであるホルミルペプチドMCT-2について、MCT-2が傷害組織より放出された後その分子形態が変化することにより、自然免疫応答の惹起から終息・再生の全般に関わる可能性が示唆されており、MCT-2が多臓器不全などの急性炎症惹起に関わるキーファクターである可能性が考えられるようになった。 現在、やはり研究代表者らが同定したマイトクリプタイドであるMCT-1やマイトクリプタイド-3について、それらに対する特異的中和抗体の取得が順次進捗しており、いくつかについてはmtDAMPs中での存在も示唆されている。今後は、それら特異的抗体ならびに質量分析装置やエドマン分析装置を用いることで、mtDAMPs中におけるそれらMCTsの分子形態を解析するとともに、新型コロナウイルス感染症における重篤化の病態でもある多臓器不全などの急性炎症性疾患との関わりを、中和抗体を用いた独自のアプローチで検討する予定である。
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