研究課題/領域番号 |
19K05854
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研究機関 | 長浜バイオ大学 |
研究代表者 |
河合 靖 長浜バイオ大学, バイオサイエンス学部, 教授 (20240830)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 蛍光プローブ / off/onスイッチング / 蛍光色の変化 / 分子イメージング / タンパク質の構造変化 |
研究実績の概要 |
本研究はアミロイド線維形成など異常な構造変化を伴ったタンパク質蓄積メカニズムの解明を目的として、off/onスイッチングや蛍光色の変化などの機能を有した革新的な蛍光プローブを開発し、タンパク質の構造変化がイメージング検出可能かどうかの評価を行うことを目的としている。 令和2年度は前年度に量子化学計算を行い設計し合成した幾つかの蛍光プローブが、その構造変化によってoff/onスイッチングできるかどうかを評価した。具体的にはまず合成した全ての化合物に関して、水溶液中でプテリン環部位とフェニル基部位の疎水性相互作用などによる接近構造に起因した蛍光消光の評価を行い、全ての化合物が水中では消光状態である事を確認した。更にアルカノールで溶媒の疎水性を段階的に増大させたり、各種疎水性の異なる有機溶媒中での蛍光測定を行い、蛍光イメージング機能の基礎評価を行った。その結果接近/乖離による構造変化を伴う蛍光プローブの場合、アルカノールにより疎水性を段階的に増大させると、蛍光強度が増大することが分かった。また、この接近/乖離型の蛍光プローブの水溶液にシクロデキストリンを加えてホストゲスト相互作用により乖離状態を誘導して蛍光評価を行ったところ、β-シクロデキストリンの場合にその添加濃度の増加と共に蛍光強度が増大することが分かった。 また、共役拡張型の蛍光プローブでは各種の疎水性の異なる溶媒中で、一つの化合物が青白色、緑色、黄緑色、橙色など様々な蛍光色に変化するという興味深い機能を有する事を明らかにした。さらに、加熱処理などで構造変化することが良く知られているタンパク質を用いて蛍光測定した結果、この共役拡張型の蛍光プローブでは可溶化しているタンパク質中とそれがフィブリル構造を取った時でその蛍光色が変化する事を見出した。これにより構造変化によって蛍光特性が変化する新規な蛍光プローブの開発に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに密度汎関数を用いた量子化学計算を駆使して、構造変化による蛍光のoff/on状態が変化可能な蛍光プローブの候補化合物を数多く分子設計した。そしてこれらの候補化合物の中から実際に多くのタイプの化合物を合成する事にも成功した。これら新たに開発された化合物は、接近/乖離型のoff/onスイッチング蛍光プローブ類と、共役拡張型のoff/onならびに蛍光色を変化させる蛍光プローブ類の二つのタイプに分けられる。これらの蛍光プローブは親水性や疎水性といった溶媒による環境変化によりその蛍光特性を変化させ、接近/乖離型のプローブではoff/onスイッチングが、共役拡張型のプローブではその蛍光色を変化させることを明らかにした。さらには加熱処理によって可溶化タンパク質がフィブリル構造へと変化できることが知られている牛血清アルブミン(BSA)やチトクロームcなどのタンパク質を用いた実験では、共役拡張型の蛍光プローブではタンパク質の構造変化に伴いその蛍光色が変化する事を明らかにした。これによって、これらの新たに開発された蛍光プローブがタンパク質の構造変化に関するイメージング物質として応用できる可能性がある事を見出した。以上の事から、概ね当該年度の目標は達成できていると言える。
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度は、前年度に評価して接近/乖離による蛍光のoff/onスイッチングが可能であった蛍光プローブや、共役拡張によって蛍光色の変化を起こす事に成功した蛍光プローブを選択し、実際にアミロイドβ凝集体が蛍光検出可能かどうかを評価する。また、様々なタンパク質を用いて、それらの特異的な蛍光検出が可能かどうかを評価する。プテリン結合型葉酸関連酵素の競合阻害活性評価も行い、蛍光のoff/onによる阻害活性のハイスループットスクリーニングが可能かどうかを測定し、この新しい蛍光プローブが抗がん剤や抗生物質の評価にも利用可能かどうかを評価する。さらには、培養細胞を用いてこれらの化合物による蛍光顕微鏡観察を行い、細胞内での葉酸関連酵素の蛍光検出が可能かどうかを評価する。また、令和2年度において新型コロナウイルス感染症拡大による緊急事態宣言発出により、3ヶ月程度大学が閉鎖されていたため研究期間が短縮され、蛍光プローブのファインチューニングが十分にできなかったところを、蛍光波長や蛍光強度の最適化に関する検討も合わせて行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究の計画段階では新たな蛍光プローブを開発するためには、あらゆる可能性を考えてなるべく多くの化合物を合成して検討する必要があると考えていた。そのために合成関連試薬を多く予定していたが、実際には最初に設計した幾つかの化合物である程度当初の目的を達成する事ができた。本来ならばさらに性能の高い蛍光プローブ開発に向けて、蛍光特性評価から得られた結果を分子設計にフィードバックしてファインチューニングした化合物類の設計・合成を行い、より良い蛍光プローブの開発を行うべきであったが、新型コロナウイルス感染症拡大による緊急事態宣言発出により、3ヶ月程度大学が閉鎖されていたため、その間十分に研究を進めることができなかった。短い研究期間でもある程度当初の目的を達成することができたので、予定より少ない予算で今年度の研究を終えることになった。 繰り越した助成金は、新規蛍光プローブのファインチューニングと、これらの合成したプローブを用いてより多くの酵素やタンパク質を購入して研究を実施するために使用する予定である。
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