研究課題/領域番号 |
19K05855
|
研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
福田 隆志 近畿大学, 農学部, 准教授 (30348586)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 天然物 / メラノーマ / 抗がん活性 |
研究実績の概要 |
日本における死因第一位はがんであり、年々増加し続けている。がんの中でも近年増加しているがんの一つに皮膚がんがあり、メラノーマ(悪性黒色腫)は最も悪性度の高いがんとして知られている。近年、がん治療は分子標的治療薬が登場することで飛躍的に進歩した。メラノーマに対してもトラメチニブが登場し、その治療効果が期待されている。しかし、薬価が高額であること、さらに最近になり分子標的薬を用いた治療は長引くにつれ薬剤耐性化したがんが生ずることなどが判明し、新たな問題となっている。すなわち、安価で確実に効果を示す抗メラノーマ薬の登場が、今なお強く望まれているのである。 以前に本研究申請者は、皮膚がんの一種であるメラノーマに対し、より選択的に抗がん活性を示す化合物の探索研究を行い、seriniquinone を海洋由来微生物の培養液中より発見した。さらにその標的が、皮膚細胞が特異的に生産する抗菌ペプチドの一種 dermcidin であることを突き止めた。そこで本研究では、この全く新しい作用点 dermcidin を標的とした化合物を天然資源、特に海洋由来微生物から探索し、 メラノーマに対し選択性の優れた抗がん剤の開発を行うことを目的として行なっている。 昨年度は、独自に入手、分離した海洋微生物を使った培養液の作成および 2 種類のがん細胞を用いたスクリーニング系を実行した。その結果、評価に用いる 150培養液の作成を終了。また共同研究者より新たに海洋微生物培養液約 400 種類の入手を完了した(計 800)。それら培養液をスクリーニングに供与、さらに活性を示す培養液からの活性物質の単離精製を進めた。その過程で見つかった Streptomyces sp. OPMA00631 株から発見した新規抗がん物質 2-epi-anthracimycinとその誘導体 2 種類に関しては論文として発表した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
スクリーニングに供与する海洋微生物培養液作成および入手は非常に順調にすすんでいる。また評価系では Jurkat 細胞を用いた評価系(抗がん活性および細胞周期への影響評価)に加え、メラノーマ細胞(Malme-3M)を用いた評価系(2 種類)の構築を終了し、スクリーニングを進めている。 昨年度の結果として、複数の既知化合物(キノマイシン類)が単離されたが、新規物質の発見には至らなかった。そこでスクリーニングを改良し、seriniquinone の活性増強物質の探索を新たに追加した。現在、評価を進めている。 また新たにseriniquinone の創薬に向けた課題解決の一環で、溶解性の向上を目的とした構造変換に取り組んだ。具体的には海洋微生物を使い、seriniquinone の構造を変化させる評価系を新たに構築し、実施した。その結果、1 種の海洋微生物にseriniquinone の構造を変換する能力があることを見出した。現在その変換体の構造および活性の確認を進めているところである。
|
今後の研究の推進方策 |
まず新たに見出したseriniquinone の構造変換体の構造を決定する。その後、誘導体化を進め、抗がん剤としての構造の最適化を行う。 また本年度は評価する海洋微生物の単離を新たに進める。これまでは海洋汚泥を分離源として用いてきたが、本年度は海洋生物、特に深海魚を対象としそれらからの微生物の単離に挑戦する。おそらく得られる微生物は深海に生育していることが予想され、これまでにない菌の分離が期待される。得られた海洋微生物は順次培養し、評価サンプルとしそれらの活性評価を進める。 これらの微生物培養液も含め、 メラノーマに対する抗がん活性物質、seriniquinone の活性増強物質および細胞周期に影響のある物質の探索系の3 種類の評価系を稼働させ、新規活性成分の発見を目指す計画である。
|