消化管ホルモンGLP-1は、食事刺激により消化管内分泌細胞から分泌され、インスリン分泌増強や食欲抑制などをもたらす。これまでに、食事誘導性の肥満や耐糖能異常の発症過程で、食後GLP-1分泌が増大することを見出した。しかし、消化管および消化管内分泌細胞にどのような変化が生じているのかは不明であり、本研究課題は、これを詳細に解析し、その分子メカニズムを明らかにすることを目的とする。 はじめに、遺伝的糖尿病モデルラット(Goto-Kakizakiラット)と正常ラットそれぞれに、普通食または高脂肪高ショ糖食を長期間(6ヶ月)摂取させ、2または4週おきに食事負荷試験を実施した。食事負荷試験の際は、全ての群において経腸栄養剤を一定量経口投与した。糖尿病モデルラットと正常ラットともに、高脂肪高ショ糖食の長期摂取により耐糖能不全が生じたが、その程度は糖尿病モデルラットの方が顕著であった。食後GLP-1分泌は、正常ラットでは高脂肪高ショ糖食の持続摂取により増大し、その増大は実験終了時(6ヶ月後)まで維持された。一方で糖尿病モデルラットではそのような増大は見られなかった。このことから、正常なラットでは長期間の肥満誘導食の持続摂取でも食後GLP-1分泌応答は増大すること、そのような適応は遺伝的糖尿病モデルでは生じないことが明らかとなった。食事誘導性肥満におけるGLP-1分泌の増大は、耐糖能の悪化に対して防御的な適応と考えられ、このような適応機構の欠如が糖尿病へと進展する要因の一つであると考えられた。
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