腸内細菌の産生するβ-グルクロニダーゼ (β-GUD) の活性を阻害することにより、大腸がんのリスクが低下するものと期待されている。そこで、各種野菜抽出物のβ-GUD阻害活性を調べたところ、大根は加熱処理することによりβ-GUD阻害活性を示すようになることを見出した。本研究の目的は、大根の加熱処理により活性化したβ-GUD阻害物質を単離同定し、活性物質の生成条件や活性化の機構を明らかにすることにある。前年度までに、粗分画物では複数の画分にβ-GUD阻害活性が認められたが、いずれの画分もさらに精製を進めるに伴いその活性が低下し、複数のピークの組み合わせの重要性を示唆する結果は得られたものの、再現性の良い結果を得ることができなかった。活性成分を構成すると考えられるピークはその吸光スペクトルなどからフェノール酸類が含まれていることが示唆されたので、シナピン酸をモデルとして加熱処理がβ-GUD阻害活性に及ぼす影響を検討した。シナピン酸のβ-GUD阻害活性は20%程度と弱い阻害活性であったが、100℃、15分間の加熱処理により、70%程度の高い活性を示すことが確認できた。今年度は、さらに逆相短カラムによる分画物に活性を見出し、最終的にHPLCによる単一ピークに活性を認めた。しかし、得られた活性物質は不安定で容易に他の化合物に変化してしまい詳細な検討はできなかった。一方、大根の70%メタノール抽出物に含まれるβ-GUD阻害物質を明らかにすべく、HPLC分画物についてβ-GUD阻害活性を検討した。その結果、単一ピークに活性を認めた。LC-MSやTOF-MSによる分析の結果、活性物質の分子量は417であることが明らかとなった。得られた化合物は安定であったが、全体の活性のごく一部を占めるものに過ぎず、大半の活性はシナピン酸モデルと同様の不安定な化合物による活性であるものと考えられた。
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