これまでの研究において我々は、マウスの妊娠期糖質制限は、次世代における高脂肪食誘導性の肥満や糖代謝不全を改善することを見出している。そこで肥満や糖尿病などの病態形成に影響を及ぼすことが報告されている腸内細菌叢に着目し、胎生期糖質制限に伴う菌叢変化と糖代謝改善作用の関連性を解明することを目的に研究を行った。 胎生期糖質制限マウスの離乳直後の糞便を用いた腸内細菌叢解析および糞中短鎖脂肪酸濃度の解析を行ったところ、対照群と比較して糖質制限群では、体重減少に伴い増加することが報告されているPrevotella/Bacteroides比が有意に上昇しており、糞中短鎖脂肪酸量も増加傾向が認められた。 そこで妊娠期糖質制限による次世代の肥満・糖代謝改善作用に、腸内細菌叢や短鎖脂肪酸の変化が関与する可能性を検証するために、胎生期糖質制限マウスの離乳直後の腸内細菌叢を、無菌マウスに移植(強制経口投与)する実験を行ったが、ほぼ全個体が3日以内に死亡した。感染症の疑いがなかったことから、投与法に問題があったことが示唆された。 そこで最終年度の研究では、強制経口投与ではなく飲水投与によって腸内細菌叢を無菌マウスに移植する実験を行った。その結果、マウスは投与によって死亡することなく高脂肪食負荷によって肥満が誘導された。また、胎生期糖質制限マウスの腸内細菌叢を移植したレシピエントマウスでは対照群と比較して高脂肪食誘導性の体重増加が有意に抑制されるとともに、肝臓および腸管膜脂肪組織重量の有意な低下が認められた。また、レシピエントマウスに経口糖負荷試験を実施したところ、対照群と比較して有意な血糖値低下が認められた。 以上の結果より、我々の以前の研究で認められた胎生期糖質制限マウスにおける肥満および糖代謝改善作用は、腸内細菌叢の変化によって誘導されることが示唆された。
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